第18話 甘え甘えられる関係は幸せな時間
「す、すまん、詩織」
慌てて詩織から離れる。
新上は一度後方を確認する。
理沙は人をダメにするクッションに夢中で気付いていない。
「ふふっ。神様って平等だね。これって新上に酷いことをした私に罪滅ぼしをしろってことかもね」
「それってつまり……」
「うん。鼻の下伸びてるよ。それにいつまで見てるの?」
気付いたら下がっていた視線を上にあげる。
「もしかして私の胸で甘えたかったりする?」
先ほどの視線の位置からある可能性に言及してきた詩織に新上は視線を逸らす。
黒色で派手な下着のラインが僅かに見えた。
その中にある大きな果実にどうしても視線がそそられてしまう。
甘美な魅力を秘めているからこそ、なにより初恋相手と言う事実が脳を余計に刺激してくる。
だけど幼馴染とは言え、やってはいけないことの区別は流石にできる。
冷静になった新上が頭を下げて謝ろうとすると、不意に近づいて。
「ふふっ、冗談よ。捲土重来を望むなら Better late than neverってね。でも新上の彼女は理沙。今は理沙をちゃんと見てあげないとだよ」
ことわざの類が苦手な新上にとっては詩織の言葉は理解に苦しむ。
耳元で囁いた後、クスッと笑われていることから詩織は詩織でこの状況を楽しんでいるようにも見える。
だけど、違和感もあった。
少しばかり引っかかっる部分があっ――。
「りぃさぁ~!」
「きやあああ!? 急に抱き着いてこないでよ!」
――美少女のイチャイチャタイムだと!?
新上は光にも負けない速度で脳内スイッチを瞬時に切り替える。
今から起こるであろう光景を見逃さないようにと全神経を声が聞こえた方向へと集中させる。
「えへへ~、それ私にも使わせてよ」
「私が先に使ってたんだから、ちょっと待ってよ~」
理沙の上に詩織が乗って人をダメにするクッションの上でじゃれ始めた。
普段学校では見る事ができないプライベートの二人の笑顔はとても無邪気で可愛い。
「あー、もお、二人だと狭くなるじゃん」
「べつにいいじゃん」
「えぇー」
言葉と裏腹に自分の方へとクッションを持ってこようとする二人に新上は「いや、元々は俺が使おうとしてたやつ」と声を掛けてみるが、楽しんでる二人には聞こえない。
「あー、詩織ぃ持っていきすぎー!」
「うそ、うそ、はい」
詩織は立ち上がって理沙にクッションを返す。
「新上? なにぼっーとしてるの? 座らないの?」
「え? あっ、そうだな」
ちょっと視線を周りに飛ばして手を伸ばす。
安物のため綿があまり入ってないがお尻にひいて使うには十分なシンプルカラーのクッションを二つ。
一つは自分用で、もう一つは詩織用である。
「ありがとう」
詩織はカーディガンを脱いで近くのソファーの上に放り投げてうつ伏せになって座る。
「せっかく三人揃ったんだしなにかお話ししようよ」
「いいね~、賛成」
詩織が家から持ってきたポッキーを三人が座る真ん中に置いて開ける。
それぞれがポッキーを摘む。
「もう夜でこのメンバーだから特に気にしなくてもいいよね?」
「それもそうだな」
「新上と詩織は心を許している誰かに甘えるのと甘えられるのどっちが好き?」
理沙の質問に新上はどっちの方が良いだろうかと考えてみる。
男として甘えられたい感情もあるが好きな人になら甘えたい感情も当然持ち合わせている。
ちょっと頭の中で想像してみると――。
思い出してしまう。
あの柔らかな弾力のある胸の感触を。
いつか触ってみたいと思う。そうなると答えは必然的に――。
「あ、甘えられたいかな?」
――新上は奥歯を噛みしめて答えた。
二人からの視線は暖かい眼差しだった。
クスッと笑った二人にはきっと新上の本心がわかっているのかもしれない。
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