第20話 二人のちょっとした勝負
二人の話し合いの結果――勝負内容は腕相撲に決まった。
平和的で今まで二人がしたことがない勝負と言うわけらしいが、用意は新上である。まず足が低いテーブルを二人の間に設置して万が一怪我でもされたらいけないのでタオルケットを両サイドにおいて負けた方の手を保護。
見た感じ両者ともか弱そう。
骨が折れないか?
と、準備をしている中、ストレッチを始めた二人を見て一瞬思ったが余計なことを言えば飛んで火にいる夏の虫みたいなオチになりそうだったので心の中でとどめておくことにした。
「ふふっ、ついに詩織と雌雄を決する時が来たね!」
「そうね。こうして理沙と力で真っ向勝負は初めてだね!」
ここだけ聞くと誤解を生みそうだが、二人は仲が良く暴力の類が嫌いな人間である。
「後で泣いても知らないから!」
「それはこっちの台詞だよ。私こう見えて結構力あるよ?」
「力じゃなくておっぱいがあるの間違いでしょ?」
「ないよりある方がいいでしょ! このど貧乳!」
瞬間二人の間に目に見えない火花が散った。
新上は絶対に余計な油を注がないよう、存在を限りなく消してただ静かに二人の気に触れないようにして準備を終わらせた。
「「新上!!!」」
「は、はい! なんでしょう?」
「あるほうとないほうどっちが良い!?」
新上は人生で最大の選択肢を突き付けられたと錯覚した。
どちらを選んでもどちらかから殺される。
そんな予感が脳裏に浮かんだからだ。
いや、ないよりあった方が良いとも思うし、あったらあったらで肩こりとかで大変そうだしと究極の選択。
本能に従うのなら新上優斗の中では一択なのだが、それはあまりにも安易過ぎて言えない。せめて理に叶った解を模索していると、いつもはスポンジのようにスカスカな脳が今日に限って冴えてくれた。
「そ、それは、勝者が力で証明すれば良いと思います。大きい方がいいという人もいれば小さい方がいいという人も世の中にはいる。だから一概に俺が決めれないのは事実であると思います。はい」
見苦しい回答ではあるが、「まぁ、それはそうだけど」と二人は納得こそできてはいないように見えるが、それも正論の一つだと判断してくれたらしい。
「「ちなみに新上個人の意見はどっちなの?」」
どうやら二人にとって一番重要な事はそこらしい。
「それは勝負が終わったら答えます」
新上は負けを悟った。
ただし、一分でも時間を稼ぎ、後で二人が忘れてくれているかも! という希望的観測を残す形で。
後は全力で乗り切るだけ!
「ってことで、二人共いくぞ!」
二人の手を取り、テーブルの真ん中で合わせる。
お互いに握り合ったことを確認する新上。
「READY GOOOOOO!!!」
掛け声と同時二人の戦いが始まった。
新上が予想した通りに可愛い戦いになった。
まるで子猫と子猫の戦いのようだ。
「ぐぬぅぅぅぅ」
身体を倒して全身の力を乗せる詩織。
「ぐぬぅぅぅ」
同じく理沙。
二人とも一生懸命に頑張っている。
可愛い声をだして。
拮抗した二つの力はどちらにも傾かない。
これは体力勝負になるかな、と気長に待つことにした新上は今のうちに火の出るお水を処理しておくことにした。
もし勝負終わりに喉が渇いたなどと言って飲まれたら大変なことになるからだ。
特に詩織は料理に含まれているアルコールですら場合によってはダウンして超甘えん坊タイムを発動する体質の持ち主なのである。過去にそれを見て楽しんでいた白雪七海というおばさんは決まって新上優斗を身代わりに差し出して酒のつまみにしていた。
そんなわけで、いつまでも出しておくわけにはいかないのだ。
可愛い声を出して気合い全開のフルパワーの二人は見ていて癒される。
これはこれで幸せ者だな。
と、さっきからチラチラと見ているだけでも頬が緩んでしまう。
「りさぁ」
「なぁにぃー?」
「ほぉれぇ~」
詩織が胸元をわざと見せて理沙を誘惑した。
詩織の胸大好きな理沙にとっては見逃せない瞬間。
その一瞬を詩織は見逃さなかった。
「もらったぁ!」
――。
――――。
女同士でも人のは自分のとは違っていい。
そんなことを誰かが昔言っていた。
「なら私が新上に甘えるってことで」
勝負に勝った詩織は床に寝そべって新上を近くに呼ぶ。
「では、私にマッサージをお願いします」
ただ甘えてくるだけだと思っていた新上は思わず息を呑み込んだ。
そして勝負に負けてムスッとした理沙に視線を向ける。
「なに?」
「いや……べつに」
「してあげたら? 勝負は勝負なんだし」
「あぁー! もしかして理沙嫉妬してるの? ムスッとした理沙可愛い♪ 写メ取っていい?」
「いいわけないでしょ! それに嫉妬なんかしてないわよ!」
「そうなの?」
「当たり前」
「なら私が終わったら理沙もしてもらったらいいよ! 本当は羨ましいんでしょ?」
「べ、べつにそんなわけ」
「なら決まりね。ただし勝負に勝った私が先だからね」
「わ、わかったわよ。そこまで言うなら私も新上にマッサージされてあげるわよ……ったく、もぉ……詩織は強引になんだから」
拗ねた理沙は詩織と新上を交互に見ては、もじもじと手遊びを始めた。
よく見れば頬が上がっているようにも見えなくもないがここは気付かない振りをする二人。
「もしかして――」
「新上?」
「いえなんでもありません」
目で早くしてと合図を送ってきた詩織に新上は口を閉じた。
結局勝負云々ではなかったと言うことだけがわかった新上は詩織の背中にまたがりマッサージを始めた。
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