第3話 始めての感情と原因不明の病


「はぁ~、私……これからどうしたらいいんだろう……」


 初めてだった。

 異性からの告白を断ってこんな気持ちになるのは。


 先日女子高生になった詩織。

 ぶっちゃけて言えば知っている人間が同じ学校で同じクラスさらには隣の席と正直最初は嬉しかった。

 些細な喜びだった。

 だけどすぐに喜びは悩みへと変わってしまった。

 今まで仲の良い幼馴染としてしか見ていなかった新上が告白してきたからだ。

 一体いつからだったのだろうか。

 ずっと幼馴染と思っていた二人の距離がすれ違い始めていたのは。

 年齢的にも思春期。

 別に変な事ではない。

 ただ幼馴染が好きになった相手が悪かったのだ。


「なんでよりにもよって私なんかを好きになったのよ……ばかぁ」


 正直今もわからない。

 告白を断ったことに罪悪感を感じていることに。

 なによりそれが本当に正しい判断だったのか。

 心の中がモヤモヤする。

 今まで近くにいて当たり前だった存在が今日と言う日を境に離れていってしまうのではないかと不安になってしまう。


「こんなガサツで女子力もない私なんかを……。他にかわいい子なんて沢山いるんだし、もしそうだったら多分素直に応援できたのに……なんで……」


 食事を済ませ、今は自室のソファーに座っている。

 全身の力を抜いて、天井を見上げるとふとっ天井に新上の顔が浮かんだ。

 少しおちょこちょいで頼りのない部分が多い。

 だけど今日の新上は違った。

 今までは高校生になって周りに恋人が増えた事でその影響を受けて告白をしてきたのだろうと思っていたが、今日の真剣な表情で告白してきた新上は今まで一番カッコイイと思った。

 真っ直ぐに自分の言葉で想いを伝えてくる新上に逞しくなった。

 と、幼馴染の成長を垣間見ることができた。

 正直嬉しいと思う反面、その成長はこれからもずっと続くと思っていた二人の関係性に大きな亀裂を作る結果となってしまった。


「なんで幼馴染のままじゃダメなのよ……」


 恋は理屈じゃないとよく聞くけど、それは恋を知っている者が口にする言葉であって恋を知らない者からしたら理解に苦しむ言葉。

 そもそも好きになろうと思って好きになれるわけでなはい。

 多くの恋は知らず知らずのうちに始まっているものだと詩織は認識している。

 だから言葉の意味が全くわからないわけではない。

 ただタイミングが悪かった。


「でも、もし……アイツが私じゃなくて目の前で他の女の子に告白していたら……多分……」


 人に迷惑ばかりかけて、今は読みたい本を読めないぐらいに頭の中を支配してくる幼馴染に皮肉を込めて呟く。


「別に今のままでいいじゃん。会いたいの一言で会える仲だし、遊びに行こうの一言で一緒にお出掛けできる仲なんだから。仮に私が受け入れて彼氏彼女になってたとしても今と何も変わらないじゃん。その何処に意味があるのかが私には理解できない。本当にバカぁなんだから」


 少女漫画のように一目惚れ。

 なんてことは生まれて一度もない。

 少女漫画のように胸が張り裂けそうになるような刺激を異性から貰ったこともない。

 そんな女子高生に新上は一体何を求めていたと言うのだろうか?


「それにあんなにしつこいと正直付き合ってからも重たそうとか思われるって気付いて欲しい……」


 一度ため息をついて。


「はぁ~、女って案外重たい男が苦手だったりするってわからないのかな……それに仲の良いクラスメイト巻き込んで明日から本当にどうするつもりよ……ったく」


 明日以降の悩みについて少し考えてみるも良い案がすぐに思い浮かばない。

 しばらく天井と睨めっこをしていると、扉の向こうから大きな声が聞こえてきた。


「詩織ー! 早くお風呂入りなさいよ!」


「は~い~」


 母親の言葉に返事をした詩織は着替えを持って部屋を出た。

 

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