第4話 二人の関係が変わり始めた日
翌日。
春を代表する桜の木から花びらが舞う。
沢山の桜の木が並んだ場所は新上が通う私立大楠高校へと繋がる通学路になっている。
目線を横に向けると通学路に並走するように人工芝で作られた公園と河があり放課後は学生から人気が高いスポットとなっている。逆に朝は朝練をする部活動生のトレーニングスポットとして使われている。
「あれ? もう朝か……」
重い瞼を上げるとカーテンの隙間から太陽の陽が差し込んでいる。
記憶が正しければ太陽の陽ではなく、月明かりのはず。
ベッドから起き上がった新上はボサボサの髪の毛を手で掻きながら何がどうなっているのかを考える。
流石に時間が飛んだ。
なんてことは、普通に考えてありえない。
そうなると、可能性が最も高く合理性も取れる結論が浮かぶ。
「はぁ……ショックのあまり気付いたら寝てたのか……」
寝ぼけた自分に言い聞かせるようにして部屋に視線を飛ばしながら呟いた。
視線を飛ばした先に見えるのは、壁際に置かれたデジタル時計。
時刻は七時五分とデジタルの数字で表記されている。
お風呂と身支度を三十分と考えると時間に余裕はある。
「ん~……」
昨日と違い寝て起きた脳はだいぶスッキリしていて自分でも驚くほどに落ち着いている。心の方は問うまでもないが。
学校に行くか、行かないか、を頭の中で考える。
今日は本校舎以外の学校案内と健康診断、後はオリエンテーションがメインとなっていて座学による授業はない日である。
「う~ん~」
目を閉じてもう一人の自分に自問してみる。
――学校行った方がいいと思う?
行きたくないのだ。
昨日の今日で詩織の顔をちゃんと見れるとは到底思えない。
まだ心の中は吹き荒れる嵐の如く。
とてもじゃないが平常運行ができるような状況じゃない。
昨日の事を少し考えただけで目から涙がこぼれてくる。
「もう俺たちの関係は終わった……今さら考えたって仕方ないのにな……あはは」
自分に言い聞かせて、立ち上がる。
身体がベタベタする。
そう思った新上はまずはお風呂に入る事にした。
お風呂を済ませた新上は自室に戻って来た。
新しい学ランに手を伸ばし着替える。
はずだった。
なのに学ランに触れた手が動く事を拒む。
初恋とは人生で初めての恋。
それはどんな恋よりも美しく儚い存在。
人生で一回しか味わうことができないなにより貴重な蜜の味。
甘いか苦いかは飲んでみないと誰にもわからない。
どんな花の蜜(過程)を集めどんな味になったのか。
十年以上の歳月をかけてコツコツと集めてきた蜜の味は……。
「はぁ~」
大きなため息をついて、伸ばしていた手を戻しベッドの隅に腰を下ろす。
「結婚したい、結婚までできたら、なんて思ってたんだけど……もう、その夢は終わった……なのにまだ無意識に考えるってことはそうゆうことなんだろうな……」
これは自分だけの時間がまだ必要だと思った新上は立ち上がり部屋のカーテンと窓を開けて景色を見渡す。
一軒家の二階から見える景色には大楠高校に通学する同級生の姿もチラホラと見える。皆が皆新しい学校生活を楽しみに足取りを軽くして歩いているように見えるのはきっと心の奥底で羨ましいと感じているからなのかもしれない。
「まぁ、いいや。今日はゆっくりとして明日から学校に行くか」
意図して誰かに言ったわけでもなく、偶然遠目に入った顔も名前も知らない新品の学ランを身に纏った男子高校生の背中に向かって呟いた。
人生山あり谷ありとはよく言ったものだ。
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