第27話 シャロンとアカネ
「あれって……アカネ……?」
ユイカがいるのだからアカネもいるだろう……と考えるのは早計か。
過ごしてきた状況が違う。
魔法の手に包まれて、百年もの間、封印されていたリオとは別ルートでこの時代を生きていると言える。だからこそ少しだけ大人っぽくなっているのだ……。
だが、百年も経っていてあの見た目は、若過ぎるが……。
彼女も同じく魔法の手に包まれて封印されていたのだろうか?
百年、丸々でなければ、十年に一度、とか……。
もしくは。
ユサの子孫がマユサ、リオの家系の子孫がリオンならば、アカネの子孫だっているはずだ。
見えている彼女が、リオがよく知るアカネと同一人物であるとは――、
「今、なんて言った……、ユイカ。聞かなかったことにしてやろうか?」
「シャロンって、偉そうなこと言ってるけど、結局のところ他人任せだよね? アカネに、こうして全部を任せてるし、学園祭の時だってそう。
アカネに厄介ごとを押し付けて、シャロンは水面下でこそこそと楽してる……。誰にも見えないところで努力してるって言うけど……誰も見ていないからこそ、もしかしたら座ってゆったりとジュースでもちゅーちゅー飲んで、頑張るアカネを見下ろしていたかもしれないよ?」
「ッ、てめっ、シャロンがサボってるとでも言うのか!? あいつがッ――あいつの背負わされた使命がどれだけの人間の願いが込められているかも知らないで……ッ!
どれだけの重圧があいつを苦しめたと思ってる! そんな中で頑張ってここまでやってきたんだ……一人でだ! そんなシャロンを侮辱する権利が、おまえにあんのか!?」
「でも分かんないじゃん。指示を出してサボってるくらい、シャロンだってすると思うよ?
アカネに分からない部分なんてたくさんあるでしょ。シャロンが全部を教えてるとは思えないし……、それでもアカネはシャロンを信用できるの?」
「……かもな。サボってるかもしれねえ……でも、いいじゃねえか。ずっと堪えて、頑張ってきたあいつが少しくらいサボったところで、あたしはなんとも思わねえよ。
……それに、見えるサボり方の裏には、必ず同時進行している策があるもんだ。あたしとおまえには分からない賢いやり方があるんだろうぜ」
「あ、リオみたいな?」
「あんなクズと一緒にすんじゃねえ」
……クズ? リオは頬を引きつらせて、二人の会話を聞き終えた。
好印象を抱かれているとは思っていなかったが、まさか裏でクズと呼ばれているとは……。
スターズ内で、しのぎを削った相手で敵対心があるとは言え、同世代だ……、
一時は仲間だったはずなのに!
ユイカは彼女をアカネと呼んだ……、ユイカの勘違いでなければ、あの『少女とは呼べない』大人の女性は、やはりリオが知るアカネなのだろう――。
「リオって、お前のことだよな? クズって言われてるけど、なにしたんだよ」
「なにも………………、じゃないけど」
「心当たりがあるならそういうところなんじゃねえのか?」
横にいるワンダに素早く肘を入れ、リオはこの穴から出ていくべきか悩む。
ユイカに加勢すれば、アカネに有利に戦えるだろう……、
しかし、彼女を拘束して話をしたところで、知りたいことを聞き出せるとは思えない。
彼女を怒らせて、カッとなって全部を吐露することに賭ける……、
いや、感情が高ぶり、実力以上の力を発揮できるのがアカネだ。
怒らせて、こっちが劣勢に立たされたら目も当てられない。
アカネもユイカも、色を重ねない自身の魔法の手で戦っている。
魔力の消費が多く、少し待てば枯渇したアカネができあがる。
どうせ加勢するなら、その時の方がいいだろう。
(近くでシャロンが見ていたり……ってことはないか。遠隔でアカネを見ることができる道具でもあれば確認しておきたかったけど……そういうものもなさそうね……)
大地を歩く甲殻類のようなカメラ、もしくは空を浮遊する移動型のカメラがあるかどうか……、視線を回してみたが、そういう類のものはなさそうだった。
カメラでなくとも、身を潜めて、シャロンがこの場を見ている可能性を探してみたが――シャロンからアカネへの信頼は厚い。
指示を出して逐一、彼女の動向を探るようなことはしないだろう――。
リオがユイカへ指示を出すのとは違う感覚なのだ。
……疑っているわけじゃないが……、
——心配なだけ、とだけは言っておこう。
シャロンとアカネの関係性になるには、長い時間か、どでかい強い繋がりが必要になる。
リオとユイカにはそこまでのものはないが……、
唯一、繋がりがあるとすれば、『ユサ』だろうか。
「…………」
リオにしては珍しく、乙女の所作を忘れて、ガリガリと頭をかく。
おかしい。ユサを思い出すだけで平静でいられない。自分で想像した名前の音だけで、心音が跳ねる。……しかも、厄介なのが、瓜二つの顔が近くにいることだ。
マユサ。
……まあ、彼はユサほど、頭が良いわけじゃないし、強い意志があるわけじゃない。
……でも、最近は違うか。
自分で一歩、踏み出した……。
だが、モノクレードル、モノクラウンを前にして、それがいつまで続くのか、だ。
彼を評価するには、まだ早計だろう。
「どうすんだよ、あれは仲間なんじゃねえのか? 喧嘩中ってところか? 止めるにしては、だいぶカロリーを使いそうだけどよ」
「放っておく。ユイカがいるなら近くに他の子たちも、」
「――ワンダくん?」
すぐ横。
屈んでワンダの顔を覗き込んできたのは、マナだった。
「よう、ただいま……って言うのはおかしいか」
「ううん、おかえり……っ、生きててっ、良かったぁ……っっ」
ワンダの頭を抱えて、ぎゅっと抱きしめるマナ。
息ができずに、背中を叩き続けるワンダには、気づいてなさそうだった。
「ひ、ひぬ、はおはふはっていきへきねえッ!」
「顔が埋まって息できない?
見て分かるから……。マナ、ワンダが死にそうだけど」
「――うわっ、ごめんねワンダくん!」
慌てて離れ、ワンダがやっと、息を再開させた。
「……はぁ、はぁ……相変わらずだな……」
「ちょっと大きくなったみたいよ?」
「嘘だろ? 食糧も満足にねえのに、でかくなるもんなのかね」
「リオン!? 余計なことをワンダくんに言わないで!」
気づけばマナの後ろにはリオンとマユサがいた。
あ、と呟くマユサと目が合い、リオが反射的に目を逸らしてしまう……。
子供みたいな反応をしてしまったことに後悔する。
視線を戻すと、マユサは気にした様子なく、リオンの一歩後ろからワンダの無事を確認して、ほっとしていた。
一歩引いて後ろにいるのは、普段から前に出ない彼の立ち位置だからか……。
マナとリオンがワンダと言葉を交わしてから、最後にワンダの視線がマユサに移動した。
「悪いな、マユサ。途中で襲われて、地上で獲ったもん全部、地下に置いてきちまった。
こりゃまた集め直しだな」
「大丈夫、次は僕もいくから」
「へえ……。お前、男の目になったな?」
マユサの決意を、ワンダは知らない……が。
本人の目を見ただけで、なにがあって、どういう変化があったのか、理解できている。
……男同士に、言葉はいらない。
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