4 異世界の町中
4-1 商業地区
「ラピス、よく来てくれました。さ、中に入ってください」
ラピスに初めて会った日から、三日。彼女は毎日ラピスを部屋に呼んでいた。ラピスは自らこの部屋に来たいとは言わない。彼女は未だ、命令や頼みが無ければ基本的に部屋でじっとしているだけらしい。ゴーレムは基本的に体内に魔気を吸収出れば、食べ物を摂取する必要もないのだ。だから、彼女は何もする必要がないため、部屋でじっとしているだけらしい。彼女はそれなら、自分と一緒にいてほしいと頼んだのだ。用事があるときはそれを優先することもサクラは約束させた。彼女は頼み事を断らないということをわかっていて、そう言った。それは自分の為でもるが、彼女とまずは自分が仲良くなろうと思ったのだ。
「今日は町に出たいんですが、案内お願いしてもいいですか」
「はい。わかりました。それでは支度をしてきますので、建物の前で待っていてください。すぐ、参りますので」
そう言って彼女は玄関から外に出ていった。サクラには準備するものも無い。そもそも、服や食器などの日用品を買うために出掛けたいのだ。サクラはラピスが出ていって少し部屋でぼうっとしてから外に出た。さすがにそこまで長時間ぼうっとしてられないので、そこまで時間は経っていないはずだ。その証拠にまだ、ラピスは来ていなかった。
「お待たせしました」
少し待っていると、後ろからラピスの声が聞こえた。格好はメイド服のままだが、その手にはトートバッグが肩に掛けられていた。そこに何が入っているのかはわからないが、どちらかと言えば、買ったものを入れるための物なのだろう。サクラは、買い物をするというのに、お金を持ってきていないなんて馬鹿なことにならないように、出発する前にもう一度ポケットに入れたお金の入った袋があることを確認した。
「それじゃ、行きましょう!」
ラピスを連れて町に繰り出す。
二人は真っ直ぐ商業地区まで来ていた。と言うか、それ以外で商売をしている人ほとんどいない。あったとしても、町の中央の広場での商売だけだ。今日はそういう商売をしている人はいなかった。
商業地区は人で賑わっていた。人の波に流されるというほどの人の多さではないが、気を付けないとラピスとはぐれてしまうかもしれない。サクラはラピスの隣に並びながら、商店街とでもいうべき町を歩いていた。店の前に露店を出している店も多数あり、人を呼び込むことも盛んに飛び交っている。元の世界ではほとんど見なくなった光景だった。サクラの目に映るものは全て新鮮だった。露店のお陰で何の店か確かめずとも、何の店かわかる。大量生産することが出来ないため、どの服もアクセサリーも一点ものらしい。似たようなデザインの物はあるが、どれも違うものだ。サクラの元の世界での格好は大して色気もない、無地のシャツにカーディガンを羽織ったり、スカートも学校の制服のようなものばかりだった。オシャレという物は彼女の遥か遠くにある言葉だったが、せっかく異世界に来て見た目も変わったのだから、可愛い服も来てみたいと思ってしまうのは仕方がないことだ。しかし、手持ちで足りるのかはわからない。文字はなぜか読めるが、それは異世界ものの常識として気にするほどではないと勝手にどこかに置いておいた。
「そういえば、何を買いに来たのですか。何かご要望があれば、少しは案内できると思います」
「服や食器など、日常で使う物が欲しいんです。それと、お金の価値も教えてほしいんです。これは高いとか、これは安いとか」
「わかりました。それではまずは、仕立屋に行きましょう。そこで服を注文します」
「? そこに店に並んでるのは服じゃないんですか」
「あれは、店の技術の基準です。こういう服を仕立てられますよ、と言う指標です。この町では服を買う、と言えば、仕立屋にこういう服が欲しいと注文するのが常識らしいのです。ですから、マスターが作ってくださったこの服を仕立てた店に行きましょう」
表情にこそ変化はないものの、どこか張り切っているように見える。その証拠に、人ごみの中、サクラがはぐれないように彼女の手をそっと握っていた。それ歩く速度も先ほどよりは少しだけ早い。しかし、サクラが焦るほどではなく、そこにラピスの気遣いを感じた。命令されたことしたできないと言っていたが、それは嘘だとサクラは思った。彼女は自ら考えているはずだ。しかし、それを信じてくれるほどの信用を得ていない気がする。心の距離がまだ近くはないのだ。彼女はラピスに握られていた手でラピスの手を握り返した。
「どうかしましたか? 歩くのが早かったですか」
「いえ、大丈夫です。行きましょう、楽しみです」
サクラは笑って彼女の隣に並んで、歩いていく。
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