2-4 ここはどこ?

 草原を目立つ格好で走り抜けた。どこになにがあるのかわからないが、とにかくやみくもに走った。既にこの世界に入ってきた玄関の扉の場所もわからない。しばらく走り、同じ草原かはわからないが、草原で止まった。深呼吸するまでもなく、自身の息が上がっていないことに気が付いた。あれだけ走ったのにも関わらず、だ。これは変身したかなのか、この世界では当たり前なのか、彼女にはわからない。これ以外のこともそうだが、彼女はこの世界の常識を全く知らないのだ。物語のようなガイド役が未だに現れていない。彼女は途方に暮れながら、変身を解除する。胸に手をやると、そこに地面と平行になった既に、開場した後の鍵が現れた。それを左に捻り、鍵をかける。カチッと言う音と共に、一瞬彼女の体が光輝く。その光が無くなると、彼女は元の服のセーラー服に戻っていた。鞄も肩にかかっている。変身した時になくなっていたのだが、変身を解除するまではそれに気が付くこともなかった。辺りを見回すと、高い壁が見えた。壁と言うより砦なのかもしれない。一定間隔で、監視塔のようなものが建っているのだ。しかし、遠近感からするとそこそこ遠い場所にあるのがわかった。しかし、そこ以外に行ける場所などはない。反対方向に行って、ずっと何もないままとなれば、餓死するか、夜の間にまた獣に襲われて死ぬかもしれないと考えて、やはり、あの砦に向かって移動するしかないと思った。


 彼女は草原を進む。稀に穏やかな風が吹いて、彼女の肌を撫でる。元の世界では、こういった場所に行くことが無かった彼女はその風がかなり心地よかった。先ほどの恐怖など忘れて、この世界の風を楽しむ。歩いていると、あぜ道を見つけることが出来た。町と町を繋ぐ道なのかもしれにないが、整備されていないのはあの獣がいるからかもしれない。こういうのも異世界と言う雰囲気があっていい。元の世界でも、遥か昔ならこういう光景は会ったのかもしれないが、元の世界の彼女の国では広い草原の近くにあぜ道と言うような景色は見ることはできない。田舎でも大抵は畑になっているため、こういった広い草原はない。公園に行ったとしても、ここまで広くはないだろう。彼女は少し感動しながら、あぜ道に入った。その道の先には彼女が目指していた砦があるようだ。方向的にはあっているように見える。彼女はあぜ道を進むことにした。草原を進むよりは進みやすく、もしかすると人が通りがかるかもしれない。何にしてもあの獣に勝てる手段のある人なのだから、強いとか頭がいいとかそう言う人が通るはずだ。そうすれば、少しは安心して進めるだろう。


 そして、彼女の予想通り、彼女の隣を馬車が通った。しかし、それが彼女の隣で止まることはなく、彼女を素通りして走っていった。彼女は声をかけることは出来なかった。せめて、後どれくらいで到着するかを訊きたかったのだが、馬車に追いつくのは無理だろう。彼女は少し肩を落としながら、道を進む。しかし、彼女の耳に、獣の方向のような声が聞こえてきた。


(まさか、今の馬車が襲われてる?)


 彼女が少し焦りながら走り出した。彼女は元の世界でも、おせっかい焼きだった。しかし、彼女は人を助らられるほどの能力はなかった。自分のことで精一杯なはずなのに、人のことを気にするため、彼女はよく余計なことはするなと言われてきた。それでも、彼女は人を助けずにはいられない。何もしないことで彼女の中には後悔の塊が生まれるのだ。だから、彼女はこの異世界でも馬車が襲われているのなら、何とかして助けようと考えていた。幸い、獣との戦闘は一度経験した。違う種類の獣でも何とかなるかもしれない。とにかく、魔法はイメージ通りに現象を引き起こすのだ。物語の中の魔法をイメージすれば、大抵の獣は倒せるだろう。


 彼女が走っていると先に馬車を見つけた。多分、先ほど彼女の横を通りすぎた馬車だろう。全身鎧の騎士のような恰好の男性三人が必死に先ほどの狼のような獣二体に抵抗している。明らかに劣勢なのは人間側だろう。彼女は先に獣たちの注意を引き付けるように魔法を放つ。魔法は水の球だ。爆発はさせないようにイメージして、狼モドキに魔法を当てる。一体に当たる前に、もう一体の方に水球を放つ。素早く飛んでいくそれは獣二体にヒットした。獣たちはその攻撃に気を取られて、顔を彼女の方に向けた。その光景に一瞬怯むも既に体験した恐怖を乗り越えて、彼女は臨戦態勢に入る。


「おい、嬢ちゃん! 危ないから、下がっていなさい! 俺たちで何とかするから、嬢ちゃんが死ぬぞ」


「大丈夫ですよっ。魔法を使えば、何とかなりますから!」


 作ったキャラではない。しかし、彼女はなぜか溢れる自信があった。それは一度獣を倒したからか、それとも倒した強力な魔法を使えるからか。何にしろ、今の彼女には根拠のない自信がある。それに、何しろ奥の手もある。彼女は可愛らしい笑みを浮かべながら、獣二体と対峙する。

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