3 お節介で戦闘

3-1 魔獣二体でも

とりあえずは変身はしないことにして、戦闘を開始する。現段階ではあまり大げさな魔法は使えない。何が起こるかわからない状態で、強そうな魔法を使うのはリスクが高すぎる。彼女はちまちました魔法を打ち続けるしかない。水の球を連続で撃つくらいしかしていない。その様子を見て、騎士たちも彼女がただの出しゃばりだと考えていた。このままだと目の前で幼い少女が殺される。そう思った騎士たちは走り出す。本来は馬車に乗っている人が雇った護衛のはずなのに、任務を放棄して少女守ることにしたのだ。


「近づかないで! 大丈夫ですから! 私がやって見せますよっ!」


 彼女は騎士たちにそう言った。しかし、騎士たちは走るのを止めない。明らかに強がりにしか見えないのだ。彼女はこうして弱い魔法を使い続けても戦闘が長引くだけだと感じた。だから、エクスプロージョンよりは威力が低いが、効果のある魔法をどうにかして出したかった。爆発系は騎士やあの馬車にダメージを与えてしまうかもしれない。サクラは地面から無数の棘が出てくるイメージをした。そして、彼女は掌を二体に向けた。そして、イメージが現実になる。相手の真下から土の槍と言えるような棘が無数に相手の体を突き刺した。範囲は獣二体がいる場所だけだ。騎士たちにも馬車にも被害はない。獣たちは完全に死んでいる。騎士たちはその魔法を前にして唖然としていた。子供のような見た目で、そこまでの魔法を使えること自体、凄いことであった。


「嬢ちゃん、強かったんだな。悪かったよ」


「いえ、小娘が生意気なこと言ってると思いますよ。まだ子供と言うのは、本当ですし」


 騎士に一人がサクラに近づいて、後頭部を掻きながら謝っていた。実力は見た目では判断できないというのを体験した騎士は少しバツが悪そうにしていた。その罪滅ぼしなのか、彼女には願ってもない申し出があった。


「依頼人が良いって言えば、馬車で一緒に町に行かねぇか? 嬢ちゃんほど強いのが居れば、安心だろうしな」


 彼女は二つ返事で了承した。彼はすぐに、馬車の方へ彼女を連れていった。




「君がこの馬車を守ってくれたのか。ありがとう」


 彼はサクラの手を握って感謝を伝える。悪い人ではないようだった。


「私はこの先の町の長でね。町に着いたらお礼をしたいのだが、少し時間をいただけないだろうか」


 お節介をしてここまで感謝されたのは初めてだった。取られて困る時間もないので、彼女は町長の言葉にも二つ返事で肯定した。そもそも、この世界に来たばかりで、何もわからないのだ。馬車に乗り込み、適当な嘘を混ぜながら自身の事情を話す。もちろん、異世界人であることは伝えなかった。伝えて大変なことになった物語を読んだことがあるからだ。秘匿して最悪な目に遭った物語もあったので、どちらが正解と言うわけではないのかもしれないが、面倒なことが起きそうなのは、それを伝えることだろう。


 話を聞き終わった町長は、彼女に優し気な目を向けた。サクラが話したことをまとめると、両親は既にこの世におらず、一人でどうにか生活できる場所を探しているというものだった。少し大げさな嘘には彼女自身も気が退けたのだが、そう言うのが一番詮索もされなさそうだと思ったのだから仕方がない。


「とりあえず、私の町に住むと良い。そう言う事情がある人を住まわせているアパートがあるんだ。きっと、他の住民とも仲良くできると思うよ。金銭の心配もしなくていい。大人になるまでは、そこら辺の世話を焼かせてはくれないだろうか」


 町長は冗談でそう言うことを言っているわけではないようだった。実際にそういうアパートがあるのだろう。彼が悪人であれば、そのアパートは将来奴隷になる人を集めているとかそう言う勘繰りをしてしまうが、そういう雰囲気はない。詐欺師のような優しい笑みをしているわけではないのだ。彼の言動から優しさしか伝わらないが、もしかすると、過去に何か辛いことがあったのかもしれない。サクラはそう考えると、町長の提案を無下にすることは出来なかった。たとえ、それが後になって、町長が最悪な人間だとしてもきっと後悔はしないだろう。この選択は間違っていない。彼女は確信していた。




 しばらく、馬車を走らせているとようやく、町に着いたらしい。窓を開けなければ、周りの景色は見えないため、サクラは窓を勝手に開けて、外の景色を見た。遠くから壁だと思っていたのはやはり砦だった。先ほどの狼モドキでは明らかに通ることが出来ないだろう。跳んでもきっとこの砦を乗り越えることは出来ないだろう。しかし、町を獣から守るにしては大げさな気もする。何はともあれ、彼女はようやく異世界の町に入ることが出来たのだった。

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