2-2 魔法は現実で
空気感が現実のように感じられるのだ。微かに吹く風は頬を撫でる。彼女は周りを見渡してみたが、草原がほとんどであぜ道のようになっている場所もあった。そこに人が通るのかもしれない。まだ、ファンタジー世界なのかはわからないが、少しパニックが収まるだけで、物語のような世界かもしれないと期待してしまう。
(そう言えば、魔法はないかどうか確認してないな)
彼女の知る異世界ものでは、イメージが魔法になるか、魔法陣にある程度理論が必要なものがあった。後者である場合は、この世界に魔法があるかどうかは確認できない。何はともあれ、彼女はイメージで魔法を使うことにした。アニメで見たような、火の球を放つ魔法、はこの場所で使うのはやめた方が良いかもしれない。。草原が焼け野原になるのをみたくはない。というわけで、彼女は火の代わりに水の球を撃ちだす魔法を使うことにした。水の球が真っ直ぐ飛んで最後には地面に落ちる、と言うイメージをした。すると、彼女の前でイメージ通りの現象が起きた。
「……おお」
一瞬遅れて声を漏らした。試しては見たが、本当に魔法が使えるとは思っていなかったのだ。目で見るまでは、信じていなかったのだが、目の前で起きたことは元の世界ではただの手品とか、最先端の科学技術とか言われるかもしれないが、今彼女の目の前で起きたのは紛れもなく魔法だった。彼女は調子に乗って、他の魔法も使ってみることにした。他の魔法と言えば、風を利用した見えない刃だろうか。彼女は目の前で、見えない刃が形成され、それが前に飛んでいくイメージをした。すると、彼女の周りで風が吹いて、目の前で薄緑の刃が生まれた。それが真っ直ぐ進んで消えていく。
「まさか、魔法を使える日が来るとは思わなかったな。まぁ、これくらいでいいか。私何かしちゃいました、なんて言いたくないし」
彼女の独り言が多くなる。それは何も知らない世界だという認識が魔法を使えることによって生まれたことと、近くに誰もおらず、一人きりであることが寂しさと不安を生み出していた。そのせいで、独り言を言うことでそれらを紛らわせているのだ。とりあえず、少しだけ待ってみたが、誰も人は通らない。彼女は仕方ないと思い、近くに町がないか探すことにした。そして、彼女が一歩目を踏み出した瞬間に、足に何かが当たった。微かに金属のような音がして、彼女は地面を見た。すると、そこには一本の鍵を見つけた。その鍵の形だけはよく見るが、鍵の形状は元の世界では全く見ないものだ。彼女はしゃがんで、その鍵をじっと見る。持ち手の部分には何かの模様が描かれていた。自分の家の鍵ではないことは確実だが、彼女のその鍵が気になり、それを持ちあげようとその鍵に触れた。指先が鍵に触れた瞬間、映像が彼女の頭に流れ込む。桃色の服を着た少女が何かと戦っているような映像。彼女の知っているk言葉で言えば、魔法少女物のアニメだろうか。しかし、少女の着ている衣装はどのアニメにも出ていないものだ。その魔法少女の戦闘の映像が終わると、意識が現実に戻ってきた。映像の中にはその鍵を使った変身の方法も流れていた。触れたときに使い方がわかるタイプの返信道具なのかもしれないと思いながら、彼女は鍵を拾い上げた。幼い頃には魔法少女になりたいとか思っていたことを思いだす。精神年齢は十八歳の彼女にあの映像と同じように、変身のキーワードを叫びながら変身するのは恥ずかしい。しかし、周りには誰もいないし、もし人がいても知っている人はいない。あの映像を見た後だと、どうしても好奇心が沸きあがってしまう。彼女は再び、辺りに誰もいないことを確認すると、その場で鍵を心臓がある辺りに鍵の先端をくっつけた。そして、彼女は映像と同じように変身するときのキーワードを唱える。
「チェンジ! ミラクルガール! コール ヴァルゴ!」
その言葉と同時に、鍵を胸に差し込んで右に捻った。その瞬間、彼女を光が彼女を包む。体のそれぞれの部位に光を纏い、それぞれが部位に合わせて形を変えた。そして、低いヒールの付いた靴にサクラ色のリボンテープで足が固定される。手には白い手袋が付いて、手首を一周してリボンテープの先は自由に揺れる。赤色の上下一体になった服のスカート部分は三段になっており、それぞれの段の裾の部分にはフリルがついていた。リボンテープが腹部を緩く一周して、リボンの両端は彼女の腰の辺りから自由になっている。両肩には天使の翼をデフォルメしたようなデザインで、胸の辺りには大きなリボンが結ばれている。リボンの中心に透き通る真っ赤な宝石がついていた。そして、鍵に描かれていたマークが装飾されたヘアピンが前髪を留めていた。そして、光が彼女の変身を祝福するかのように光が弾けた。
「……おお」
本日、二度目の感嘆。彼女は自分の姿を見て、本当に魔法少女みたいな恰好になってしまったと他人事のように自分の衣装を見ていた。
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