第5話 王様、受け入れる


 あれから釈放された俺は唯の家に連れてこられていた。


「トーリがこっちの世界に慣れるまでの間だけよ。」


 とのことだったので、ありがたく…じゃないわ!!雰囲気にながされるところだった。俺がなぜこんなところにいるのか説明してもらわねばなるまい。


「何で俺をこんなところに連れてきたんだよ!俺は王様になってこれからキャッキャうふふな生活が待っていたっていうのに!」


「嘘つきなさい。退屈してきてたくせに。」


 ギクリとする。確かにそうだが、だからといってこんなところに連れてきていい理由にはならないだろう。


「それはそうだが、納得いかない。理由がさっぱりわからん。たまたまとか言ってたけどまさか本当に?」


「そう、本当にたまたま。まぁ一応謝っておくわ。ごめんなさいね。」


「誠意が足らんな。誠意を見せなさい。」


「何よそれ。」


「わかるだろ〜。」


 と下品な笑みを浮かべてみた。


「きも。ほんとバカはどこでもバカのままね。」


「ふっ、おれの手にかかれば」と言いかけたところで唯から強力なパンチを喰らう。ボコッッ!!ボキ。


 ボキって聞こえたぞ!?


「い、いひゃい。」


「そんなことばっかり言ってるからよ。いい?幼馴染のよしみで言うけど、ここではそんな事では生きていけないわ。ここでのあなたは、魔力なし、剣術のセンスゼロ、そこら辺のモブ以下よ。わかった?」


 は?聞き捨てならん。俺のどこがモブ以下だと。


「何を言ってる。俺ほどに最強な奴はこの世に存在しない。そんなの言わずと知れた当たり前じゃないか。」


「じゃあ、ここに来てからあんた誰かにチヤホヤされた?女にモテた?敬われた?そんなことはないはずよ。」


 確かにそうだが。


「ここでのあんたはダメ。」


 グサリ。


「あほ。」


 ぐは。


「バカ。」


 ぐはぁっ。


「つまり価値のない人間。」


 いやぁぁぁぁ。


「クズってことね。」


 チーン。俺は床に突っ伏していた。言われずとも何となく察してはいた。この世界に来てからと言うものろくに魔法もつかえない。剣を持っていただけで牢に入れられた。俺という人間が無価値に扱われていた。


「まぁここではそもそも剣術も魔法も存在しないわ。この世界で必要なのは権力と金よ。」


「…金ならいくらでもあるぞ。」


「あっちの世界でのお金なんて意味ないわ。そんなものおもちゃと変わらないし。」


 しくしく。涙が出てくるぜ。


「取り急ぎ職を見つけなさい。しっかり慣れるまでは置いてあげるわ。」


 この女、勝手に連れてきたというのに全く反省の色がないな。覚えてろ。


 と思うが、今俺はこいつしか頼れるひとがいない。


「よろしくお願いします。」


 なーーんてこれっぽっちも思ってないが、そう言わざるを得なかった。


「見てろ。ここでも俺は確固たる地位を築いてやるからな!こんな奴に頼らなくたって!いつか俺の思い通りにしてやる!覚えてろ〜!ふ、ふふ。ふぁーっはっは!」


 はっ!しまった。声に出ていた。


「ふーん。そーいう態度ならビシバシやるから覚悟なさい。」


 と、未知の世界での生活が始まろうとしていた。


 そーいえばこいつがなぜこっちの世界にこんなに順応しているのか聞いていないな?


 まぁいいか。今は自分のことで精一杯だ!よーし!明日から頑張ってやるぜ!


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