第2話 王様、謎の異世界(現代)へ

「な、なんじゃここはーーー!!!」


 俺はこの異様な光景を前に困惑していた。つい本音が口から出てしまうほどに。口を大きくOの形に開き、目玉は飛び出してしまいそうだった。


「と、とりあえず誰かそこらへんに居る民に聞いてみるか。」


 ちょうどいいところに女が通りかかる。それにしても変な格好の女だ。というか、この町の者は皆変な格好をしている。


「おい、そこの者。ここは何という名の町だ。なぜこんなに多くの魔物がいるというのに俺に報告がないのだ?」


 と女の肩に手を置き、気を取り直して女をじっと見つめる。


(こんな至近距離で俺に話しかけてもらえるなんて何てラッキーな女だ。)


 と、いつものペースを戻しつつあった。


 が……、


「は?だれあんた。何?コスプレ?きもっ。」


(は???)


 コスプレというのはよくわからないが、この俺に向かって気持ち悪いといったか?この女。


「お主、俺が誰かわかっているのか?」


「どう見ても変なやつじゃん。やだ!離してよ!警察呼ぶわよっ!」


「ふふふっ、まぁ俺の広い心でその無礼を許してやろう。覚えておけ。俺はこの世界の王だぞ!お主たちの王様だ!」


 と、双剣を手にかかげキラリと白い歯を見せ決めポーズを作る。


 ぽかん…。


 女はあっけにとられている。まぁ無理もない。自分には一生手の届かない"俺"という存在が急に目の前に現れたのだから。また一人、女を虜にしてしまったようだ。全く我ながら罪な男だ。


 などと考えていると、


「きゃーーっ、だれかー!警察、警察呼んでー!!」


 意味をわからない事を叫び走り去ってしまった。何だというのだ?わけがわからん。この俺を前に恐れ多いと去ったのか、そうに違いない。


 ピーポーパーポー、ファーン。何やら騒がしい音が近づいてくる。


 な!?凄い勢いで魔物が近づいてくる。と、動きを止め中から人質と思わしき男が出てくる。


「吐き出されたか!お主助かったな、もう安心するが良い。俺の後ろに隠れていろ。すぐにそいつは撃退してやる。」


 ガチャリ。


 と出てきた男を庇う…?ん?ガチャリ?


 手に何やら繋がれている。


「おい、これは何だ。無礼だぞ。早くせねばやつは逃げ、また人を喰らうぞ!くそっ!」

 

 仕方ない。このままで、


「天よりいでし、我に宿れ。リズ・スフィリア!」


 ………。


 なぜだ?何も起きないだと。


「天よりいでし、我に宿れ。リズ・スフィリア!」


 ………。


「天よりいでし、我に宿れ。リズ・スフィリア!」 


「天よりいでし、我に宿れ。リズ・スフィリアァァァァァァア!!


 ………はぁ、はぁ。


 最後の方は半ばヤケクソになっていた。


 周囲の民たちがヒソヒソと俺の方を向きながら何か呟いている。


「午前11時40分、銃砲刀剣類所持等取締法違反。現行犯逮捕。」


 と唐突に男が言う。


 一体、俺の身に何が起こっていると言うのだ。もう、誰に何を思われようがどうでもよかった。


 そう、ユイが言っていたように俺はそもそもバカ、いや戦うことだけが取り柄の"へたれ"なのだ。


「離してくれぇぇ!誰か、誰かーー!」



 ——俺の声は虚しく響いた。


 そんな俺の様子を見ていた者がいるとも知らずに…。

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