「何か」
悠
第1話
「知る」前のちょっと短いお話。
まだ頭は、ぼんやりしていた。
もう太陽は昇っていた。目覚まし時計を見ると、もう朝の7時を回っていた。思わずベッドから飛び起きそう」になった。
本当なら、この時間に起きたら学校には確実に遅刻するだろう。
だが、その心配はない。なぜなら学校に行く必要はないから。学校の授業はオンラインだからだ。
3月に国から休校要請が出され、その後は緊急事態宣言が発令されたためここ何ヶ月も学校に行っていない。行くことが出来ないという言い方の方が正確だろう。外出をずっとしていないから、今年は桜を見ることは無かった。誰にも見られずに桜は散ったのか。
今の感覚としては「世界が変わっていく」感じだ。まさか明日のことが分からなくなる世界が来るとは思いもしなかった。まさか外出をするということ一つにこんなにも慎重になる日が来るなんて思わなかった。ゴミ出しをするためにいくつかの個人商店がある小さな商店街を通った。ただ、どこもかしこもシャッターが閉まっていた。よく見るとシャッターには張り紙が貼ってあった。「当分の間、臨時休業致します。大変申し訳ありません」と書いてあった。いつもよりも寂しく感じる。普段なら駅に向かってサラリーマン達が死んだような顔をして通勤しているのに、サラリーマンはおろか人通りはほとんどない。
今は、4月の終わり。学校はいつ始まるのだろうか。そもそも、学校は始まるのだろうか。この先、どうなるのか全く分からない。こんな日が来るとは。
ゴミ出しを終え、朝食を食べた私は今、オンライン授業を受けている。
本当ならば学校で受ける授業は15時過ぎまであるが、生徒や先生の負担を考えてお昼過ぎまでしか授業はない。先生は授業中だというのにマスクを着けている。おそらく教室には誰もいないはずだが、感染対策で着けているのだろう。クラスメートは、この授業を受けているのだろうか?みんなはカメラをオンにしていない。どんな顔をしているのだろう。どんな表情をしているのだろう。先生だけが機嫌よく話をしている。自分だけが置いていかれるような感覚だ。ただただ時間だけが止まることなく過ぎていく。
午前中の4時間の授業が終わった。
「はぁ…。疲れた…。昼食を食べないと…。でも、眠い…。」
授業が終わったのもつかの間、ベッドに横になってしまった。寝るつもりはないが、意識がなくなる。なんだかぼやけていく。現実から引き離されていく。寝ているはずだけれど、これは現実?夢の中?眠る感覚に近いけれど、いつもと何かが違う。私は今どこにいるのだろう…。なんだかうるさいな…。
突然、身体がびくっとなった。
クラスメートの騒々しい声が聞こえる。
「ここは教室…?」
腕時計で時間を確認する。
私は10分くらい寝ていたみたいだ。
でもまだお昼休みの時間か…。
まだ、寝ぼけてるみたいだ…。
頭が上手く回らない。思考回路が上手く働かない。まだ頭が冴えない。
「今見たのは、夢か…?」
いや、それにしては現実的だったな。
でも、どうして自宅で学校の授業なんか受けていたのだろう?
今日は2019年12月8日。
ニュースでは、どこかの国で新しいウイルスが発生したと伝えている。なんだか嫌だな。日本に来なければいいけれど。でも、まぁ大丈夫だろう。
「何か」 悠 @yuu040905
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます