第27話 姫騎士ファーストキス

「どうだ? レパルト……その……何とか言ったらどうなんだ? ……というより、無言はやめてくれ。不安になる」


「えっと、あの、その……き……綺麗です……え、エルサリア姫の……身体……すごく綺麗です」



 レパルトはとにかく「綺麗」と嘘偽りない素直な感想を漏らしていた。


「そ、そうか? ……そ、そうか……ふふ、て、照れくさいが……悪い気はしないな。やはり、生涯の伴侶に体を褒められるのは、どこか誇らしい。その……レパルトも……逞しくて……か、可愛いと思うぞ?」


 エルサリアの『恥ずかし固め』を目の前にして、レパルトはベッドの上で正座していた。

 よく分からないが、自然と正座していた。

 対してエルサリアは、今の態勢に恥ずかしさと、自分の体をレパルトに褒められたことで体がより一層熱くなり、唇からこぼれる息が荒くなっていた。

 そんな中で、レパルトは聞き逃せないエルサリアの発言に、思わずを乗り出した。



「って、あの、いうか、その、姫様! は、伴侶ってどういうことですか!? お、俺、ブリシェール姫の眷属ってやつですし、そもそもアルテリア覇王国の奴隷なんですけど!」


「奴隷だなどと言うな! お前がいなければ、姫様も私たちも皆、死んでいた。いや、国が滅び、そして私たちは辱められ、凌辱され、地獄の苦しみを味わっていただろう。しかし、お前のおかげで皆が救われた! お前は私たちの英雄だ!」


「そそ、そんなんじゃないですよお! お、俺、全然……俺そんなんじゃないです……ただ、ブリシェール姫に報いたくって……」



 謙遜ではなく本心で自身への英雄という評価を慌てて否定するレパルト。

 しかし、その態度より、エルサリアが僅かに感じたのは、レパルトのブリシェールに対する想い。

 目の前で何も覆い隠さずに純潔の秘所を晒している女の目の前で、他の女の話をされたことに対する複雑な気持ち。


「レパルト……」

「はい? うわっと!」


 気付けばエルサリアは、恥ずかし固めのポーズを解いて、両足を正座しているレパルトの体に巻き付かせて、強引に自分に覆い被らせるように引き寄せた。

 引き寄せた後は、両足をレパルトの胴体に回してしっかり固定し、両手をレパルトの頭に巻き付かせて抱き寄せ、離さない。


(くっ、まさか私がこのような大胆なことをするようになるとは……しかし……責任を取ると言った以上……この身体でレパルトを満足させてやらなければならない……そう……ブリシェール姫のことを今だけは忘れ……)


 自身の行動に自分自身で驚きつつも、エルサリアは抱き寄せたレパルトの耳に唇を近づけ……


「レパルト……今は……私だけを見るんだ……」

「ッ!? は、はいいい? えっと、あの……お、おれ、なん――――?! んんむうう!?」

「ふぐっ……ん、じゅぶ、あ、むうぅっ……」


 その瞬間、レパルトは頭をエルサリアに両手で捕まれ、無理やり唇を奪われた。

 不意のキスに動揺してすくみ上ってしまったレパルトは身動き取れず、やわらかいエルサリアの熱っぽい舌がレパルトの唇と口の中を侵略していった。


(はあ……これが……大人のキス……愛のキス……ああ、だめ、レパルトの舌が絡みつく、……あ゛あ゛……舌も、歯茎も、唾液も……全部逃さない)


 徐々にレパルトが現状から慌てて逃れようとするも、体をしっかりと、エルサリアの両足と両腕で固定されているので逃げられない。

 レパルトのレベルマイナス1。戦えば相手よりレベル1弱くなる。力づくで拘束されてしまえば、絶対に逃げられないのである。

 エルサリアも決してレパルトを離そうとしない。レパルトの舌を絡め取り、唾液を吸うように濃厚に舐る。


(ああ、キス……すごい……頭が働かない……生涯の伴侶と交わすキスがこれほどだなんて……もっとしていたい……ずっとしていたい……キスがやめられない……)


 エルサリアの瞳がトロンとなり、最早キスだけでエルサリアは堕ちてしまった。


「ふ、む、……んん、ちゅぷ、ちゅ、はん、はっ、ん、ふ、ふうぅぅぅ~~~んっ! レパルトォ……ちゅ、ふう、ん、ちゅくっ」


 互いに唇だけを合わせるキスではない。貪り合い……いや、エルサリアが両手と両足をレパルトの体に巻き付けて固定し、エルサリアの方からレパルトの口内を貪るようなキスをしていた。


「んん、んんーーー! ひ、ん、ひめしゃ、んんっ、んんーーーー!?」


 もはや、キスというよりは、捕食やマーキングに近いものであった。

 唾液と舌の絡み合う音を盛大にさせ、うっとりとしたエルサリアが呼吸の間も与えぬほど、何度も何度もレパルトの口内を夢中になって吸い上げた。


「ぷっは! はあ、はあ、はあ、はあ……」

「っは……はあ……」


 やがて、互いが酸欠で意識が遠のきそうになったところで一旦唇を離す。

 慌てて勢いよく深呼吸して酸素を取り込もうとするレパルトに対して、エルサリアは艶っぽく濡れた唇で微笑んだ。


「キス……素敵ね……唇も柔らかい……」


 その口調は、姫騎士としての毅然とした口調ではなく、まるでただの恋する乙女のように柔らかく、そして甘えるような声だった。


「えっと……は、はい、やわらかいです……姫様の……その……」

「違うわ。柔らかくて素敵な唇は、おま……あなたの方よ……んちゅうっ」

「はうっ?! はぐっ、んぐ、あ、ぐ、んん! んんーーっ!?」


 そして、すぐにエルサリアは離れたレパルトをベッドに横たわる自分へと再び抱き寄せてその唇に吸い付いた。

 エルサリアは僅かな恥じらいがありながらも、自ら唇を押し付けて、そして求め続ける。


「はううううぅぅぅ、ん、ぺちゃ、れろ、じゅる、ぴちゃ……んん」


 粗くなった息遣いと共に、再び部屋の中にはちゅぽちゅぽ舌先を鳴らした絡み合いの音が響き、ずっと続いていた。


「ねえ……レパルト……そろそろ……ねえ?」

「んちゅ、は、はい? な、なんでしょう……」

「そろそろ……ひとつに……なりましょう?」

「ひうっぐ!?」


 そして、やがて二人はキスから次のステップへと登り――――

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