第26話 姫騎士が股を開いた
ブリシェールの唾液まみれになってそのまま放置されたレパルトの唇を前に、エルサリアは動揺していた。
もちろん、それは寝たふりをしていて起きるタイミングを逃してしまったレパルトも同じ。
「く、早くふいてやらないと……ゆっくり……彼に気付かないように……そ~っと、そ~っと……ふう……にしても……見れば見るほど……可愛い英雄だな……私を、国を救った救世主……ゴクリ……」
エルサリアは男の逸物を目の前にして、ある不思議な感情に包まれていた。
(どうしてだ? ハモリトやあの千人隊長のオークが私にみだらなことをしようとしたときは、言葉に出来ぬほどの悪寒と吐き気に催された……しかし……彼は……なんだろう……私は……触れたい……)
レパルトに対して、エルサリアの心にある感情が芽生えていた。
(彼は……見ているだけで私の何かが熱く……それに、吸い寄せられそうになる……抱きしめてやりたくなる……)
気付けばエルサリアは頬や体が熱く染まり、それだけでなく内股になってモジモジし、その口から艶のある吐息が漏れていた。
(そうか……姫様もひょっとしたら……しかし……いきなりなんて……いやいやそもそも、小国とはいえ一国の姫が……いやいやしかし、大国の姫であるブリシェール姫はチュウチュウと……ッ、ど、どうすれば……)
既にエルサリアの頭の中には、レパルトの唇を拭って部屋から出て行くという選択肢はなかった。
目の前で横たわる英雄を見て、何かしたいという想いと、胸の中の好奇心が合わさって、どんどん体がレパルトに吸い寄せられていった。
(でも、キス……姫様はあんなに愛おしそうに……どんな気持ちで……嬉しいのだろうか? 気持ちよいのだろうか? キス……)
その時、エルサリアはレパルトの顔に近づき……
(キス……姫様の話では彼は元々奴隷の……嗚呼、私は奴隷の子供に……キスを……でも、この子の小さく柔らかそうな唇は……)
(エルサリア姫、どうされたんだろう? さっきから黙られて……)
目を開けられないのでいまいち状況が理解できないレパルトは、先ほどから無言で部屋から出ていこうともせず、自分の傍にいるエルサリアの気配を感じながら、何かあったのかと不安が過った。
「まあ……もう、いいか。私のこの身は……彼が居なければ、ハモリトやオークたちのような醜悪極まりない奴らに穢されていたもの。それを……我が国の……私の英雄に捧げるのであれば……」
「?」
「惜しくなどない。……ちゅっ」
「ッ!!?? え、ええええええ!?」
「きゃっ?! えっ、な、あ、あれ?」
突如として感じた唇に当たる吐息と、柔らかく暖かい感触。
寝たふりなどできるはずがなく、レパルトは慌てて目を開けて起き上がった。
レパルトの覚醒に、エルサリアも顔を真っ赤にして慌てて飛び退くも、その表情が既に何をしていたかを物語っている。
「え、えるさりあ、ひめ……い、今、お、おれに……」
「あ、いや、ち、違うんだ、えっと、れ、レパルト……だったか? その、い、今のはだな……」
レパルトは指で恐る恐る自分の唇をなぞる。うっすらと濡れた唇が、証拠として残っていた。
「き、ききき、きす……お、おれ、に、きき、きす……」
「ま、待て、お、落ち着け! そ、その、こ、これには色々と事情があってだな」
慌てふためくエルサリアだが、もうその言葉は今のレパルトには届かない。
「き、キスされちゃった、俺! 俺……」
「そ、そこまで動揺しないでくれ……ブリシェール姫とあのようなことをして……」
「ど……うしよう……俺……また、女の人にとんでもないことを……」
「……えっ?」
「ひ、姫様は、お、俺みたいな汚い奴隷を助けるために体と心を汚されて……それなのに、俺、また違う女の人に……」
「は……あ?」
「これじゃあ、俺……あのブタたちと同じ……」
気付けばレパルトは罪の意識に囚われて、涙腺が潤み始めていた。
エルサリアからキスされたのだが、今のレパルトは、「自分が女の人をまた穢してしまった」という罪に苛まれていたのだった。
(そんな……何を……彼は……そんなに私とのキスが嫌と……いや、無理もないか……私とていきなり寝ているところを大して話したこともない男にされてしまえば……これでは、私もオークやハモリトについて言えるはずがない!)
罪の意識に苛まれたのは、エルサリアも同じだった。
自分の心を制御できずに、寝ているレパルトの唇を奪ってしまったことで、まさかレパルトがこんな反応をするとは思えずに後悔した。
だからこそ……
「すまない……私が淫らな想いを制御できずに……お前を傷つけてしまって……」
「ひめさま……おれ、おれえ……」
エルサリアは己の罪を見つめ、そして覚悟を決める。償うための。
「レパルトとやら……責任を取らせてもらう……」
「……へっ?」
エルサリアはレパルトの横たわっていたベッドの上に足を乗せて登った。
レパルトの正面に仁王立ちするエルサリアは、真っ赤に染まった顔でプルプルと震えながら、膝の上までしかない自分のスカートの裾をゆっくりと持ち上げた。
「ッ!!??」
露わになる、純白の白い下着。
ハモリトに無理やりスカートを剥ぎ取られた時と違い、エルサリアはそれを自らの意思で異性に晒した。
「……くっ……うっ……ッ!」
「ちょっ!? え、な、なんで!?」
突然のことで、何が起きているのか分からず混乱状態のレパルト。
そんなレパルトの前で、エルサリアはゆっくりとお尻をベッドの上に降ろし、恥ずかしさで死にそうな表情で唇を噛みしめながら、両足を開くように手で引っ張り、自分の頭の位置まで持っていった。
何故、そんなことをエルサリアが自分に向けて突然したのか分からず、最早声も出せないレパルトに対して、エルサリアは……
「わ、分かるだろう? レパルトよ……」
恥ずかしくて顔を逸らしながら、察しろと告げるエルサリアだが、レパルトに分かるはずもない。
「……もう、何故分からんのだ? ……こ、これが……私の責任とお前に対する誠意の……『恥ずかし固め』ではないか!」
―――――――――――――???????
「な、なんだその呆けた顔は! ち、地下世界の奴隷は、し、知らないのか? 『恥ずかし固め』だぞ? 男の目の前で恥ずかし固めをした女は夫婦の誓いをしたも同然で、こここここ、子作り、ししし、しまくらないとダメだという決まりを知らないのか!?」
「えええええええええええええええええええええええええええええ!? ち、ち、地上ってそうなんですかああああああああああああ!?」
そんな決まりはないのだが、このような形でハモリトの口にした出鱈目が、レパルトとエルサリアの関係を一気に変えることになったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます