第15話 囚われの妹姫
―――こうして、お姫様は勇者様と末永く一緒に暮らしましたとさ。めでたしめでたし。どうだ? セレス。人間が作った童話だ。
―――はふう、素敵です、おねえさま。私も、助けてくれた勇者さまみたいな人と結婚して、末永く暮らしたいです。
―――セレス、これは人間のお話なんだぞ? 私たちヴァンパイアが、人間と結婚なんてできないぞ?
―――うう~、いやです。私も、魔王に攫われた姫様を助けに来た、勇敢な勇者様みたいな人と結婚するんです~!
それは、何百年も昔の話だった。
不老長寿のヴァンパイアの国、アルテリア覇王国の第二皇女、セレスティン・アルテリアがまだ幼かった頃に、敬愛する姉に絵本を読んでもらったときの話。
まだ幼さゆえに、人間、ヴァンパイア、その他の種族についても認識のないほどの頃、異国の人間が書いたという絵本を姉であるブリシェールが夜寝る前に聞かせてくれた話。
あれからもう数百年の月日が経ち、セレスティンも立派に国を背負う姫として成長した。
凛とした姉とは違い、少し鈍くて、天然で、あまり戦いに向かない性格で、ぽわぽわほんわかした不思議な空気を放つ。
自国の民たちからは、「おっとりした優しいお姉さん」という印象を持たれ、普段は無視をも殺さないような柔らかく優しい笑みを浮かべている。
さらに、今は戦乙女の鎧で押しつぶして隠しているものの、その鎧の下に備わるたわわな胸は姉よりも遥かに大きく、歩くだけでユサユサと揺れてしまう大きな果実。
通りを歩くだけで、男たちが顔を赤らめながら二度見してしまう。
そんな大人の乙女に成長したセレスティンは、もはや昔のように絵本の勇者に憧れるような子供では……
(勇者様……素敵で、凛々しくて、勇敢で、優しくて、逞しくて……ずっと、そんな方を私はずっと……ふふ、お姉さまったらその話をすると、いつも溜息をされて……)
もう子供の時とは違う、というわけではなく、セレスティンは未だに「勇者様」を夢見る少女の想いを抱いているところがあり、そんな自分をよく姉に呆れられていたものだと、セレスティンは夢の中で微笑んでいた。
しかし、その時、ガクンと世界が揺れ、その衝撃でセレスティンの意識は目覚めた。
「ッ……あらあら……私は気を失っていたようです……ここは……馬車? そうでした……私はオークに攫われて……今はどこかに移動中……ッ!?」
懐かしい日々を思い出しながら目を覚ましたセレスティンは現状を確認するべく見渡す。
そこには、物置のように、テントの材料や、兵量の入った樽などと一緒に詰め込まれた、鉄格子の籠のような檻、その空間にセレスティンは両手足を縛られている。
馬車の中には外を見られる穴等はなく、自分が今、どこへ連れて行かれようとしているのかも、セレスティンには分からなかった。
しかし、そんなことよりも、セレスティンは今の自分の状態に気づいて、意識が一瞬で覚醒した。
「そ、こ、これは……な、一体どうなって!?」
少し大きめの鉄檻の中で両手足を縛られているセレスティン。それはまだいい。問題は、その両手足の縛られ方だ。
両手を上げた状態で、檻の天井からぶら下がっている鎖に括りつけられ、その両の足は膝を曲げながら股を大きく左右に開脚した姿勢で縄によって固定されている。
自身が履いていたスカートはオークたちに引き千切られていたので、今のセレスティンは下には鋼の貞操帯のみ。
しかし、それで十分に恥ずかしく、セレスティンは反射的に股を閉じようとしたが、縄で固定されているために身動きが取れない。
「ぐわはははははは、まだ犯されていなくて安心したか? セレスティン姫」
「ッ!?」
その時、意識を取り戻したセレスティンの馬車の荷台の中に、一人のオークが品のない笑みを浮かべて入ってきた。
セレスティンは思わず睨みつけるも、すぐに理解した。
目の前に現れたオーク。
黒い体毛に覆われ、鋭い二本の角を生やした野性味あふれる猪の形相。
並の人間より二周り以上もする体躯で、肩から腕にかけては露出した鎧だけを纏い、その肉体に搭載された筋肉は一目で高密度だと分かるもの。
その拳には、篭手と一体化し拳の先に鋭い棘のついたナックル。
見ただけで、並みのオークとは一線を画す存在だと分かった。
「俺は、チャシュー魔王国の千人隊長だ。バークシャのジジイが死んだ所為で、今、この精鋭部隊を指揮しているのはこの俺だ」
「千人たい……ちょう……」
「にしても、涎が出そうなぐらい良い女だな、セレスティン姫。貞操帯が外せなくて逆に良かったぜ。魔王様への献上品とする前に、味見しているところだったぜ」
「ッ!!??」
「おまけに、バークシャのジジイが下手打ったせいで、アルテリア覇王国では女たちをあんまり犯せなかったから、隊の奴らは相当イラついてる。もし、お前の貞操帯や上の鎧を外すことが出来てたら、今頃お前は俺たちの肉便器になってたところだぜ!」
心優しく温和な姫としてアルテリア覇王国では慕われていたセレスティンも、目の前のオークの遠慮も品もない下劣な言葉には強い憤りを感じずにはいられずに、その瞳に力が籠る。
だが、すぐに今の自分では何も出来ない現状を思い知らされ、悔しさで唇を強く噛みしめた。
「それで……このまま……どこへ向かうのです?」
「聞くまでもないだろ? お前たちの国の本軍と我が国がぶつかり合う戦場に戻り、お前を人質として奴らを強く揺さぶるのさ」
「……無駄です……お父様たちは誇り高き王……決して、あなたたちとの交渉などは行いません! そして、私の死を糧に、アルテリア覇王軍が修羅となりてあなた方を殲滅することでしょう」
せめて、弱味だけは見せぬよう、毅然とした態度で振る舞うセレスティン。
自分には人質の価値などない。殺すなら殺せ。その代わり、滅びるのはお前たちだと告げる。
しかし、その毅然とした態度もすぐに崩れることになる。
それは……
「試してみるさ。まあ、その前に……山を越えた麓の、ヴァンパイア共の傘下国家となった人間の辺境田舎小国を通らねえといけねえから、もう一仕事残っているんだがな」
「ッ!? に、人間の……小国……まさかッ!!??」
「ああ、ミルフィ国さ」
「ッ!!??」
「ついでに兵糧の補給と、女も補給しとかねえとな。部下たちも溜まりまくってるからな。くくくく、ぐわははははははははは!」
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