第11話 えっちっち儀式

 レパルトは少し懐かしい夢を見ていた。

 それは、親友のチャンプが童貞を捨てたと自慢気に話をしていた時。



―――なあ、レパルト……女のおっぱいって、マジで柔らかくて美味しいんだぜ?



 羨ましかった。

女の胸を触るどころか、手も触れたことどころか、まともに話もできないレパルトにとっては、チャンプの経験は未知の世界のものだった。

 話を聞けば聞くほど、品のない妄想が頭の中で繰り広げられ、自分が女の裸と対面したら、どういうことがしたいのか、何を試してみたいのかなど、決して口にできないことばかりがどんどん生み出されて行っていた。

 

「ふむ……丁度良く山小屋があって好都合……しかしここからが問題か。こやつの自我を失わせずに、わらわの眷属とするには、正式な契約が必要となる。せねば、こやつの自我と肉体が崩壊し、二度と元には戻らぬ」


 王都の中央から国門を越え、アルテリア覇王国の国境いとなる森林と山に囲まれた麓にある山小屋にて、ブリシェールは一度敵軍の追跡を止めて、重傷を負っていたレパルトの治療にあたっていた。

 本来、至高とも言うべきヴァンパイアの姫が、奴隷の人間を手当てして介抱するなどありえぬこと。ましてや正式な眷属にするなど以てのほか。

 しかし、ブリシェールは贅沢を言えるような状況ではなかった。

 レパルトの秘められた能力を失う訳にもいかず、更には妹を救出するには絶対にレパルトの力が必要だと確信していたからだ。

 瀕死だったレパルトの首を咬み、レパルトを人間として生きることを捨てさせたものの、傷を癒すことには成功した。

 ヴァンパイアに噛まれたものは、人ではなく別の存在になる。しかし、それだけでは完成されない。

 噛んだヴァンパイアと正式な契りを結ばねばならない。


「さて、ここからか……えっちっち……せねばならぬ……本来は子孫繁栄のための崇高なる儀式なれど……生涯を共に歩む眷属との契約儀式にも用いられる……わらわが……奴隷の童と契りを……か……」


 ブリシェールはやるべきことはちゃんと分かっている。正式な教養とまではいかないが、未通女なれど最低限の知識はある。

 いつかは自分もそのような経験をすることになるだろうと思っていた。

 姫という身で自由な恋愛は望めないまでも、それでも最初に異性と肌を重ねるなら、その相手を深く知り、そして自分が納得するような相手であって欲しいと願っていた。

 そんな夢見る乙女のような時代もあったものだと振り返りながらも、しかし、今は攫われた妹を救出するために迷ってはいられないと覚悟を決めた。


「今、この童の肉体は吸血化の影響で全身の血が過剰に動き、ひどく興奮状態……その精をわらわの体内で受ければ……戦争が始まった時点で、念のためにと不妊の魔法をかけているので、万が一は無いとは思うが……しかし、迷っている時間もないか……」


 自分のためではなく、家族を救うため。更には国を守るため。このまま妹を人質に、アルシェリア軍を脅されたりなどすれば……

 ゆえに、ブリシェールは女としての自分を捨て、国を守る王族として、姉として、ボロボロのベッドに横たわるレパルトの服を……


「ッ、ぐっ……こ、これが……男の身体……」


 下穿きをずらして、眼前に現れたソレを目の当たりにした瞬間、ブリシェールの表情に脅えが現れた。

 童顔で無害そうな顔をした人間の子からは想像もできないほど凶暴な男の肉体に、ブリシェールの覚悟を一瞬で迷わせるほどのモノだった。


「これと交わらなければ始まらぬ……」


 ブリシェールは本当なら引き下がりたいとすら思っていたが、たとえ独り言でもそれだけは言わない。

 例え強がりでも、毅然とした態度でコレを受け入れなければと分かっていたからだ。


「ひっ、ぐっ、う、うう、待っていろ……セレス……どのように汚れても……わらわは……必ずッ! ……そして……許せ、童よ!」


 自然と涙が出るも、ブリシェールはもう一度覚悟を決めて、ベッドの上に立つ。

 両足を跨いで、ゆっくりと、戦乙女の白いスカートの下に装着されている、己の魔法で固く閉ざされた白銀の貞操帯を、自らの意志で外した。

 カチャリと鍵が開き、それを手に取って、ゆっくりとベッドの脇へと置いた。

 入浴や排泄や着替え以外で、ここまで自分の肌を晒すことなど今までなかった。

 その恐怖と未知の経験に足を踏み出そうという想いが、ブリシェールの全身を熱くさせ、吐息を漏らし、そして心臓が速く大きく鼓動した。


「はぐっ!? ……えっ?」


 そしてその時、朦朧としていたレパルトの意識が戻り、目覚めれば自分の真上には見知らぬ天井と、手の届かぬ世界の住人であるはずのブリシェールが……


「ひ、な、え、ひ、姫様……ゆ、夢? うそ、これ、なん……」

「すまぬ、事情は行為中に説明する、今は黙ってわらわと……ッ!」

「ッ!?」


 レパルトの意識が戻ったものの、経緯を一から説明している暇はないと判断したブリシェールは、姫として人前では絶対にしないような両足を広げる。


「ウェ……!? ちょ、ちょぉ!? ななな、何をしようとしているんですか?! と、止まってください」

「止まれぬのだ。すまぬ、わ、らべ……許せ……ウヌを……人の……時の流れから外してしまうことになる……」


 レパルトの耳に、ブリシェールの言葉が入る。

しかし、すぐに抜けて頭には入らない。

 何故ブリシェールが自分に謝罪をするか、何故涙を流しているのかも全く分からない。

しかし、例え何があったとしても、身の程知らずにも憧れていた姫と「こうなっていること」の前には小さなこと。

 むしろ、頭の中身は、何も履いていないスカートの下を晒しているブリシェールの姿。

 さらに……


「ッ!? なんで!? これ夢!? でも、夢に見えな……姫様がすごくきれいで、わ、お、おっぱいも大きくて素敵で……」

「ぬっ、お、おっぱ……ぬぅ」

「あ、し、しま!? ご、ごめんなさい、姫様! あ、あの、俺どうかしてて!」


 その瞬間、レパルトは混乱して心の中の声を口に出してしまった。


「……童よ……わら、わの、乳房を求めるか?」

「ッ!?」

「……男は女の乳房を好むということは聞いている……童も同じか?」


 自分の無礼を責められるかと思ったが、ブリシェールの言葉は非難ではなく問いかけだった。

 その問いに、レパルトはどう答えていいか分からなかった。

 答えなど一つしかないが、それを口にすることなど絶対にできない。

 しかし、言葉を失うレパルトの様子に心情を察したブリシェールは、答えを聞くまでなく、自ら甲冑をほどき、それをレパルトの枕の隣に置いた。


「ッ、ひ、姫様……!?」

「……聞くな……これしか、ないのだ」


 甲冑の下には、上品な絹製の衣服。ブリシェールはそれだけではなく、それすらも脱ぎ、その下からは胸を覆う青いブラジャー。

白い肌が乳房以外が露わとなる。

 これほど露わになった女の肌を、レパルトは未だかつて見たことがない。それどころか、初めてが姫だというなら尚更だった。

 なのに、それだけでは終わらない。

 ブリシェールは左手で自分の乳房を隠し、胸を覆う下着を震える右手で外した。

 もし今、ブリシェールが左手を少しでも動かせば、ブリシェールの神聖な乳房の全てが曝け出されてしまう。

 ありえぬ現実が、再びレパルトの心臓を高鳴らせた。


「あ、の、姫様、その、お、俺……」

「すまぬ、本来このような行為は……互いの合意を経て……しかし、その時間は無かった。さらに、……申し訳ないが……代わりに……」


 ブリシェールは腰を曲げて、仰向けになっているレパルトの顔の息がかかる距離まで近づけた。

 そして……



「褒美と、詫びと、報酬……この程度でと思うかもしれぬが、今、わらわがくれてやることができるのは……・これだけだ。だから……わらわの……純潔と……乳房を含めてこの身体……くれてやる……好きにせよ」


「ッ!?」



 レパルトの眼前で、ブリシェールは胸を隠していた手をどかし、全てを曝け出した。

 今のブリシェールは、足と脛を覆う青色のブーツの防具だけ。それ以外は全てを脱ぎ捨て、裸体を晒していた。

 それどころか、ブリシェールは言った。「乳房を好きにして構わない」と。

 初めて見た女性の乳房の全てに、レパルトの興奮は最大限にまで高まり、そしてその双丘に対して本能が告げていた。



 全てを欲しいと。



 そして、二人は儀式を――――



 そして、ブリシェールはこの儀式の最中に気付くことになる。



 レパルトのスキル、「レベルマイナス1」の間違った使い方と、その恐ろしさに。




――あとがき――

キンクリ発動

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