第21話 盗まれた鉱石
マリアは領事館の裏手に廻った。いま正面で押し問答しているから裏は手薄になっている。マリアは裏手にあるニメートルの塀を跳躍して軽く飛び越えた。もちろん裏にも防犯カメラは設置してあったが跳躍しながら防犯カメラに位置を瞬時に確信すると眼が光り光線を防犯カメラに浴びせた。防犯機能は停止したがブザーは鳴らなかった。なんなく領事館に忍び込み各部屋を見るというより人の気配で探す。職員は居るが領事館内には犯人らしい者が居なかった。マリアは人の呼吸の乱れまで読み取る事が出来る。マリアは変だなと思った。領事館本館とは別に離れの倉庫みたいな建物がある。その倉庫に向かって手をスライドさせた。手に感触が伝わって来た。まるで手にセンサーが付いているようだ。マリアはどんどん進化している。六人程潜んでいるのが分かる。こちらは呼吸が激しく波うっている。マリアは呟いた。
『さてどうやって捕まえようか。騒がれたら困る。出来れば一人一人ではなく一度に片付けたいものだ』
マリアは倉庫の前に立った。ドアには内鍵が掛けられているようだ。外側だと鍵を外し事は出来るが内側の構造まで分からない。こうなれば炙り出ししかない。マリアは倉庫の外壁に向かって大きく深呼吸した。掌を壁に充て力を込めた。掌から何かが放たれているようだ。そのまま三分、四分と過ぎて行く。すると倉庫の内部が騒がしい。炎が出た訳ではないのに倉庫内の温度が急上昇してゆく四十度、五十度、六十度。犯人達は悲鳴を上げて自ら出て来た。その隙をマリアは逃さなかった。マリアは叫んだ。見つけたぞ! 一斉にマリアを見ると同時にマリアの眼が光った。六人の男達は眼を抑え転げまわった。あの暴走族の浴びせた光線と同じものだった。そう眼に唐辛子の粉末を塗り込まれたような強烈な痛みが走る。それは想像を絶する痛みだ。その男の一人がジュラルミンケースを持っていた。それを簡単に奪い取り、中を確認する。間違いない、あの鉱石だった。取り返せば用はない。本来なら警察に引き渡し所だが国際問題とかなんとか騒がれては困る。マリア塀を跳躍し裏手の通りに出て政務次官に電話した。
「終りましたよ。撤収しましょう」
「えっ早い。流石です。お礼は後程として撤収しましょう」
領事館の前では未だ揉めあっていた。それが日本の役人達が急に引き上げたのでホッとしたというより驚いていた。まぁ引き上げてくれれば問題ないと思っていたら領事館の中庭の方が騒がしい。まさか裏から入ったのか。いやそれなら此処は我が領土。許されるはずもない。
しかし裏庭のある倉庫の前で六人の男達がのたうち廻っている。誰にやられたと聞いても何がなんだか分からないと言う。倉庫の中の温度が急激に上がり火事かと思ったが、火事ではなかった。暑くて堪らず外に出たら何か光線のような物を浴びたというのだ。
「日本の特殊部隊が入って来るのも考えにくい。それこそ大問題だ。領事館に勝手に侵入すれば世界中から非難される。だとすれば少人数いや一人かもしれない。だとすれば日本にはエスパーでも居るのか? 日本には凄い奴が居るものだ」
一瞬だが確か若い女が立って居た感じがするとこれも確かでない。それも一瞬で顔まで分からない。幸い全員暫くして眼が開けられるようになり怪我もなかったが盗った物を取り換えされてしまった。まさか日本政府に盗った物を返せと抗議も出来ない。ただ押し黙るしかなかった。
つづく
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