第11話 マリアの特殊能力

 マリアはそれでも怯むことなく睨みつける。十九対一、一人減ったぐらいでは状況は変わらない。するとマリアの眼差しが変わって行く。そして眼が青白く光り始めた。そうあの隠れた瞳に下にあるホクロのような物が光っている。驚いた暴走族は後ずさりし始めた。次の瞬間その眼は強烈な光を放った。まともにマリアの眼を見た連中は眼を抑えてのた打ち回る。眼が強烈に痛みだし何も見えない。鼓膜に唐辛子の粉末を入れられたような感じだ。残ったのは三人、何が起きたか分からない。しかし現実にはリーダー格を含め十七人が倒れて戦意喪失状態だ。もはや勝ち目はないと見た三人は逃げようとした。だがマリアは逃がさない。瞬時に移動し三人の前に立ちはだかる。怒りに満ちた眼がまた光はじめた。


「わぁ許してくれ俺達が悪かった。あんたは何者だ。人間かエスパーか」

「宇宙人だとでも言いたいの。見れば分かるでしょう。普通の大学生よ。さああの金属の箱を此処に持って来て」

「分りました。いま持って来ます」

「よし、次は倒れている連中を川の水をぶっかけて目を覚まさせるのよ」

 三人の男は慌てて川の水をバケツに入れて次々と水をぶっかけた。なんかと起きた連中を整列させるが完全に怯えている。もはや人間ではない。眼が光りレザー光線のように狙ってくる。マリアの眼を見るように命ずると怯えながら仕方なく見た。次の瞬間またしても眼から強烈な光が放たれた。暴走族の連中は立ったまま金縛りにあったように動けなくなった。

 マリアは笑いながら金属の箱をバイクに乗せて走り去って行った。暴走族の連中は暫くして睡眠から覚めたように動き出した。だが金属の箱を盗んだ事もマリアが現れこっぴどく痛めつけられた事も記憶になかった。マリアが記憶を消し去ったのだ。マリアが初めて見せた特殊能力の一部だった。宇宙人の血を受け継いだマリアはエスパーになりつつあるようだ。


 ただいまぁ。そう言ってマリアは帰って来た。母の佐希子と父のドリューンはリビングでテレビを見ながら寛いでいた。二人共五十少し超えている。ドリューンはテレビ鑑賞が好きなようで特に漫才のファンのようだ。漫才番組を好んで見て笑い転げている。これが宇宙から来た人とは思えない。顔はイタリア系でも心は完全に日本人だ。もはや佐希子と知り合った当時の特殊能力は消え失せていた。

「お帰り遅かったね。何処に行っていたの」

「ああ大学の友人に誘われてね。くだらない話で盛り上がっていただけよ」

 すると父のドリューンがマリアに微笑みながら語りかける。

「マリア大学生活は楽しいかい。友達は沢山いるのかい」

「うんお蔭様で楽しい学生生活を楽しんでいるよ」

「そうかいそれは良かった。処で特に親しい友達というか恋人とはいるのかい」

「ふっふふ、もう二十歳よ。恋人の一人や二人居たっておかしくないでしょう」

「なに? やはり居るのか。どうも最近帰りが遅いと思ったら」

「なぁにお父さん。私に恋人が居るといけないの。それとも心配してくれているの」

「そりゃあ可愛い一人娘だもの。気になるさ」

 母の佐希子が笑って二人の会話を楽しんでいる。昔のドリューンと違っていまでは普通の優しい中年のお父さんって感じだった。もはやドリューンは完全にアルタイル星人のカケラも残っていないようだ。結婚した当時は、時おり超能力を発揮して佐希子や周りの人を驚かせたものだ。ドリューンが超能力を使うたび佐希子は激しく叱咤した。人に怪しまれる事をして人間じゃない事が知られるのが怖かったのだ。ドリューンから取り上げた不思議な機械は今でも倉庫の奥にしまってある。しかし未だにどう処分して良いものか困っているらしい。


つづく

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