第6話 ドリューン,沙季子の家で居候

 佐希子は車の中で自分の家族に合わせるからドリューンにイタリア人になり切るように伝えた。それと苗字も決めなくてはならない。イタリア人は何故かアで始まる苗字が殆どと言ってよいほどアで始まる。そこでドリューン・アンドレと決めた。

「今から貴方はドリューン。アンドレよ。そうそう私は佐希子・東野。ただ日本では苗字が先読みだからトウノ・サキコが正しい呼びかたよ」

「良く分かった。それから君の家族に会う時の挨拶も覚えたよ。初めまして私はドリューン・アンドレです。イタリア人で日本を旅行中に佐希子さんとお友だちになりました。よろしくお願いいたします。どうこれで」


「お~流石、もう完璧よ。それとこれからどうするの。日本で働かなくてはならないのよ。仕事は出来るの」

「大丈夫、パソコンもマスターしたし車も運転出来るよ。料理も力仕事でもなんでも出来る」

「知っているわ。別荘で私の車を勝手にキーもないのに車を動かしていたものね。また特殊能力を使ったのね」

「ごめん、便利だからつい」

「これからは人の前では使わないでね。怖がって誰も貴方に寄り付かなくなるわよ」

「分った。これからは人間として生きて行くのだから全て佐希子に従うよ」

 最近のドリューンはやけに素直で可愛い。つい母性本能がくすぐられる。いやいや宇宙人に惚れる訳には行かないと否定したが、否定しても惹かれて行くことにはどうにもならない。佐希子はドリューンの持っているパソコンのような機械を処分すると言って預かっているが本当に処分していいか迷っている。何かあった時の為に隠してある。

 やがて佐希子の実家に到着した。実家は東京といっても山郷にある奥多摩だ。周りは山ばかりでとても東京とは思えない。佐希子は両親に友人を連れて帰ると伝えてあった。ただ外国人とは伝えていないから驚くかも知れない。


「ただいま~いま帰りました。お土産沢山買って来たからね」

すると近くで育てていた野菜を持って母が笑顔でお帰りと言った。

「あらお友だちって外国の方なの」

「そうよ、旅先で仲良くなって暫く泊めるからね。お父さんは?」

「ああ間もなく帰って来るよ。佐希子が帰って来るというので仕事の帰りに肉を買ってくると言っていた」

「へぇ~じゃ今夜はスキヤキかな」

佐希子が食べたいならスキヤキにしょうかね。そちらの外人さん口に合うかな」

「ああ紹介するね。イタリアの人、日本で働きたいそうよ」

「初めまして私はドリューン・アンドレです。宜しくお願いします」

「あれまぁ日本語が上手なこと。日本語が話せるなら仕事もすぐ見つかるさ」

 それから間もなく父が帰って来た。ドリューンを見て少し驚いているが歓迎してくれた。その夜はスキヤキ歓迎パーティとなった。ドリューンは何処から見ても不思議なところはない。素直で冗談まで覚えて両親を笑わせてくれた。思いのほか好かれているようだ。ドリューンは食べる事の喜びを覚えた。いまでは問題なくなんでも食べられるようになった。そしてアルコールも飲めるようになった。なんという吸収力の高さか。もうどこから見ても普通の人間だ。


 翌日から仕事探しを始めた。雑誌で探しのではなくパソコンで探した。ドリューンはコンピューター関係の仕事がいいと青梅市に募集している会社があった。ゲームソフト開発会社のようだ。日本人スタッフだけのようだがイタリア人の発想も面白いと採用になった。佐希子は父が勤める役場で働いている。ドリューンをいつまでも家に泊めて行く訳にも行かない。佐希子は近くにアパートを借りてあげた。しかし外国人という設定だが一人で暮らせるか心配だ。佐希子は仕事が終わると毎日ドリューンのアパートを訪れ何かと面倒を見てやった。それから休みの日などはピクニックにも行くようになった。半分は両親も参加して、そんな日々が一年続いた。この頃になると両親を含め誰もが認める恋人同士となっていた。佐希子も宇宙人という事はもはや頭になかった。こうして二人は結婚した。結婚式にはドリューンの親は出席しなかった。そなんものは最初から居ないのだから病気で海外に出る事は出来ないという事になっている。その代わり電話や手紙は両親の元に届く。勿論、音声も作られたもので手紙も同じだ。 

 ドリューンは既に人間になりきっていた。ただ困った時だけ佐希子の許しを得て特殊な機能を発揮した。例えば戸籍の取得を役所のコンピューターへハッカーして勝手に戸籍を作ったりもする。勿論パスポートも取得、更に車の免許に特殊技師として日本で働ける就業ビザまで作った。佐希子の両親もイタリア人として疑う事はなかった。


第一章 終


つづく

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