ラブコメ×恋人ルート 最後のデート

彼女とは色々な場所へと遊びに行った。

もう、この町で行く場所はないのではないか。

今日も彼女と会う予定だが……。

どこに行くことになるのだろうか。

コン、コン、コン。

家の戸が叩かれる。

彼女が来たようだ。

「おはよう」

いつもと変わらない様子の彼女だ。

「さあ、今日はどこに行こうか」


      → この町はもう回りつくしたもんな ←


「うっ」


      → そろそろ世界を変えたほうが…… ←


「今日はちょっと遠くに行ってみるのはどうでしょう」

「遠くに行ったほうが、新しい体験もあると思うし」

「そのほうがいいわよね」

慌てた様子で彼女は言った。


      → どうやって行くんだ ←


「そんなの車に決まっているでしょ」

「この家の裏に泊まっている青い車、あなたのでしょ?」

車なんて持っていたかな。

そう思いながら、家の裏に行くと、確かに青い車があった。

社内には僕の免許証も置かれている。

「さあさあ、早く行きましょ」

そう言いながら彼女が車の助手席へと乗り込む。

そのとき気が付いた。

これは、最初からここにあった車ではない。

彼女が僕に、ここに車があると思いこませたことにより、車がある世界に遷移させたのだ。

僕は騙されたような気分になったが、ドライブに行くのも悪くないと思い、運転席に乗り込んだ。

しばらく車を走らせると隣町にたどり着いた。

この町は僕たちの町よりも大きい。

各国グルメを取り扱っている商店街から、ゲームセンター、岩盤浴、スポーツセンター等、気になる店がたくさんあった。

助手席では彼女が目をキラキラさせながら、街並みを見ている。

ここをこれから一緒に回るのか。

悪くないと思った。

でも、それで神通力が修得できるかは疑問であった。


1日では回り切れないと思った僕たちは、旅館に泊まることにした。

畳が敷き詰められた落ち着きのある和室からは、海が眺望できる。

非常にいい空間だ。

……。

あれ?僕たちはこの部屋に泊まるのか?

同じ部屋に?

「見て!海が見えるよ」

「すごいね。地上から見ると海と空って交わるんだ」

彼女は気に留める様子もなく神特有の感想を述べている。

まあ、気にしないことにしようか。

変に意識するほうが、気まずい空気になるかもしれない。


「畳っていいね」

「これはずっとゴロゴロしていられるわ」

そう言いだしてから1時間、彼女はずっと畳で寝転がっていた。

新しい町を散策するのではなかったか。

とはいえ、旅館を満喫することも旅の醍醐味でもある。

楽しんでいる彼女にとやかく言うのはやめたほうがいいだろう。

……

……いや、

本当にそれでいいのか?

僕たちの目的は旅を楽しむことではないのだ。

神通力を修得することが目的のはずだ。

しかし、

しかし、彼女には本当にそうしたいのだろうか。

神通力を取り戻すことよりも、一緒にこの世界を楽しみたいと思っているのではないか。

もしそうならば、僕としても、彼女と一緒に暮らすことは嫌ではない。

彼女は僕とは不釣り合いなほどに可愛く、

なにより一緒にいても楽しい。

そして、僕に好意を持ってくれている。

なんの不満もない。

「どうしたの?なにか考え事してる?」

無意識のうちに彼女のほうをじっと見ていたようだ。

今が、僕たちの今後を話すチャンスかもしれない。

僕たちの今後を考えると――


      → この世界で一緒に暮らさないか ←

      世界を変えて、神通力を探そう


神通力の習得は諦めて、この世界で暮らすことを提案した。

2人だったら、幸せに生きていけることを説いた。

「そ、そんなの……」

彼女は顔を真っ赤にして、目をそらしている。

「……」

「……ダメに決まっているでしょ」

「もちろん気持ちは嬉しいんだけどね」

「私たちは、力を取り戻すために一緒にいるのよ」

「神通力を取り戻すことを諦めるなんて考えられないわ」

……断られたのか。

僕は、断られると思っていなかったので面を食らった気分だ。

最近の彼女の様子を見たら、彼女も同じ想いだと思っていたのに。

一緒に暮らしたいという気持ちは、僕しか感じてなかったようだ。

僕一人だけが舞い上がっていたようだ。

僕はなんだか怒りがふつふつと湧き上がってきた。

だったら――


      → 世界を変えて、神通力を探そう ←


世界を変えて、他の世界で神通力を探すことを提案した。

この世界で暮らしていても神通力を取り戻せないことを説いた。

「そうかもしれないけど……」

彼女は暗い声で、顔を伏せている。

「……」

「……嫌」

「あなたの言っていることは正しいのだけれど」

「なんで、そんなこと言うの」

「この世界には、意味がないって」

「そう言いたいの?」

「……私は嫌よ」

断られてしまった。

正直、断られるとは思ったが、

今日の彼女はやけに感情的になっていた。

でも僕は、彼女のことを思って提案しているのに。

彼女のために神通力を取り戻したいと言っているのに。

僕一人だけが頑張っているだけではないか。

僕はなんだか不満がふつふつと湧き上がってきた。


爽やかな潮風とは裏腹に、空気は最悪だった。

彼女は沈んだ表情で黙り込んでいる。

黙り込まれると彼女がどうしたいのかがわからない。


      → 結局どうするの? ←


「……」


      → まだこの世界で神通力を探すの? ←


「……」

改めて問いかけても返答がない。

なんだか問い詰めているみたいで、僕のほうも感じが悪くなっている。

しかし、彼女の真意がわからないので、僕のほうも話をまとめようがない。

いっそのこと、勝手に世界を変えようかとも思った。

でも、それはこの世界の彼女を否定しているような気がして躊躇われた。

「……ごめんね」

彼女がふと声をあげた。

「ごめんね。私の言っていること変だよね」

「おかしなこと言っているよね」

その目には涙が浮かび上がっており、ポタポタと畳を濡らしていた。

「私、自分でも自分がどうしたいのかわからないの」

「どうして?」

「あなたのことを好きになってしまったから?」

「あなたと一緒に暮らしたいと思っちゃったから?」

「私は神なのに」

「力を取り戻さなきゃいけないのに」

まるで堰を切ったかのように、涙と言葉が溢れ出してくる。

彼女は自分の気持ちのせいで悩んでいたのか。

神通力を取り戻したい気持ちと。

僕のことを想う気持ち。

だとすると――


      → 僕のせいだ ←


「え?」

「何を言っているの?」


      → 僕が神足通を使ってしまったから ←


僕が彼女に好かれたいと、恋人になりたいと願ってしまったから。

それが、彼女の気持ちを惑わせているのではないか。

だとしたら彼女が悩んでいるのは、僕のせいだ。

「違うわ!」

「……違うのよ」

「なんでそんなことを言うの?」

「なんで私に優しくするの?」


      → 君のことが好きだから ←


「……!」

「……」

「……私も」

「私もあなたのことが好き」

「だったら私たち、どうしたらいいのかな」

「私は、本当はどうしたいのかな」

「あなたにはわかる?」

「私でもわからないこの私の気持ちを」

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