序章4

 ――翌朝


 普段はなかなか目を覚まさないのだが、今日は早めに目が覚めてしまった。


 どこかに出かけるのも良いのだが、昨日の約束もある。


 僕は家で本を読んで過ごすことにした。




       ファンタジー小説を読む


       ホラー小説を読む


       SF小説を読む


       → 恋愛小説を読む ←




 僕は恋愛小説を読むことにした。


 棚から1冊手に取りパラパラとめくる。


 ボーイミーツガールものだ。


 主人公の男の子は、ある日謎の少女とであう。


 少女は記憶を奪われた森の魔女で、異世界から転生してきた。


 記憶を取り戻すために主人公は少女に協力する。


 しかし、主人公は少女に対して、好意を抱いてしまう。


 記憶を取り戻したら、元の世界に戻ってしまうのではないかという葛藤を描いた本だった。




 恋愛小説を読んだからだろうか、昨日の女性のことを思い出してしまう。


 森の中で出会った女性、彼女は――




       恋人はいるのだろうか


       不思議な雰囲気を持っていた


       → 僕のことを知っているのだろうか ←




 ――僕のことを知っているような話し方をしていた。


 しかし、僕は彼女に会った記憶がない。


 そもそもなぜ、僕には記憶がないのだろうか。


 そのことも彼女から何か聞き出せるのだろうか。




 そろそろ、昨日の女性が僕の家にやってくるころだ。


 おそらく彼女は、僕の記憶がないことについての手掛かりを持っている。


 だとすると――




       協力して記憶を取り戻そう


       → これは運命的な出会いなのではないか ←




 ――ここで会えたのは運命なのかもしれない。


 彼女は僕のことを知っているということは、過去に会ったことがあるのだろう。


 そんな人と偶然にも森の中で会うなんて、なかなかあることではない。


 きっとこれは運命なのだろう。


 そう思って、僕は顔が赤くなる。


 何を言っているんだ。


 これから会うのに変なことを考えるべきじゃないと思うようにした。


 だけど、今日彼女に会うことが少し楽しみになってきた。




 コン、コン、コン。


 家の戸が叩かれる音がした。


 昨日の女性が来たのだろう。


 僕は出迎えると、外には彼女が立っていた。


「あなた、また余計なこと考えていたわね」


 彼女は笑顔を見せる。


 だが、その目は笑っていない。


「まあ、いいわ。部屋あがらせてもらうわよ」


 そう言って僕の部屋へズケズケとあがっていった。




 彼女は僕のベッドに腰掛ける。


 向かい合うようにして、僕は床に座る。


 必然的に彼女を見上げる形になった。


「話したいことはいろいろあるんだけど」


「まず、最初に一番大事なことから言っておくわ」


「いい?一番大事なことなんだから絶対聞き逃さないでよ」


 彼女は勿体つけるように言う。


「私はね。神なの」


「正確に言えば『神だった』かしら」

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