序章3
――僕は目を覚ました。
濫立する木々の中、土を下に眠っていたようだ。
深々とした緑の中、頭を抱えながら起き上がる。
空を見上げると、三日月が出ている。月明かりのおかげでかろうじて周りを見渡せた。
どうやら森の中にいるようだ。
だけど、なぜここにいるのかが思い出せない。
記憶を呼び起こそうとすると、頭がズキズキ痛む。
僕は一体何を――。
問いかけても返答はない。ただ静寂が続くだけであった。
しかしその時、いや、静寂な空間だからこそ、奇妙な音が響き渡った。
「グググググググ」
その音は鮮明に僕の耳を叩く。どこから発せられたかはわからない。それでも確実にその奇妙な音はした。
この音は、まるで――
ドラゴンの鳴き声みたいだ
洋館の扉が開いているのか
→ 悔しそうに声をあげている ←
――歯ぎしり交じりの悔しげな声だ。はっきりとは聞こえなかったが、誰かが声を出しているような感じがした。あるいは近くに人がいてほしいと思う願望なのかもしれない。
僕は声のするほうに歩きだした。この暗い森の中に1人でいるのは危険な気がする。人がいるなら、声をかけたい。
声の主に近づいたのか、今度ははっきりと聞こえる。
「むぐぐぐぐ」
女の声だ。歯を食いしばって悔しがっているのだろうか。何があったのかは推察できないが、ひとまず向かおう。
木々を抜けると、そこには――
――1人の女性が立っていた。白衣を纏っていており、手にはなぜか6枚の札が握られている。女性は長い黒髪をぼさぼさと掻きながら困ったような顔をしている。
どうしよう、声をかけるべきか。
→ 声をかける ←
声をかけない
僕は彼女の下に歩み寄って、何か困っているのかと声をかけた。
「ひっ。見られてましたか」
ひきつったような目でこちらを見る。
急に声をかけてしまったから、驚かせてしまったのかもしれない。
「ごめんなさい。失くしものをしてしまいまして」
「あれがないと困るんです」
どうやら大事なものを失くしてしまったらしい。
→ 一緒に探そうか ←
何を失くしたの
一緒に探そうかと提案した。
「いえ、探して見つかるものでもないので」
自嘲気味に彼女は笑った。
「あの、あなたはなぜここにいるのですか」
→ わからない ←
わからないと答えた。
「わからないというのは……?」
気が付いたら森の中で眠っていたことを話した。
少女は考え込むようなしぐさを見せる。
「記憶がない……。気が付いたら倒れていた……。もしかするとこの男が……」
なにやらぶつぶつつぶやいている。思い当たることがあるのだろうか。だとすると、もしかしたら、この女性は僕の知り合いなのだろうか。
思考をめぐらしてみるものの、頭はズキンと痛み、思い出せない。
少なくともすぐに思い出すことはできそうにない。でも彼女をよく見れば、気づくことがあるかもしれない。それを元に何かが思い出せるのではないか。場所、持ち物、服装、顔、すべてを見回したうえで、僕は思った。
森にいるなんて魔女みたいだ
札を持っているし巫女さんかな
白衣を着ているのは研究者だからか
→ こんなきれいな女性と付き合いたいなあ ←
突然、彼女は頭を抱えて、膝をついた。
「はあ、はあ、はあ」
息を切らして僕をにらみつけてくる。
「あなた、何か変なことを考えませんでしたか」
あなたみたいなきれいな女性と付き合いたいと答えた。
「なんで、自己紹介のまえに勝手なことを考えるの!」
彼女は僕に対して怒り出す。
たしかに初対面かもしれない女性に対して、失礼なことをしてしまった。
「むぐぐ、これが神足通の力なのね」
「やっぱり、この男が力を……でもどうして……」
彼女は息を切らしながら、僕に言ってくる。
→ 大丈夫ですか ←
その力……?
彼女は呼吸をゆっくりと整える。
どうやら平静を取り戻してきたようだ。
「大丈夫。体のほうは問題ないわ」
「それよりも、問題なのは……」
→ 僕ですか? ←
「ええ、そのとおりよ」
「でも、説明は明日にしましょう。私にも確認しなきゃいけないことができましたので」
「明日の朝9時に会いましょう。あなたの家に行きますわ」
僕の家を知っているのか。
彼女はいったい何者なんだ。
「あと1つだけ言っておきます。あなたはまっすぐ家に帰って寝なさい」
「寄り道したり、余計なことは考えないことです」
「それじゃあ、私は帰りますので」
→ ちょっと待って ←
「まだ何かあるのですか?」
→ 家までの道がわからなくて ←
「ああ、あなたの家ですね」
彼女はきょろきょろとあたりを見渡し、無造作に手をあげる。
「あっちのほうにまっすぐ行きなさい。そうすれば、森を抜けてあなたの家につくはずです」
「それじゃあ、私は帰ります。明日9時忘れずにね」
彼女はそう言うと、森の中へと入っていった。
いったい誰だったんだろう。
考えてみようと思ったが、余計なことを考えるなと釘を刺されていたことを思い出す。
やめておこう。どうせ明日の朝にはわかることだ。
彼女が指さしたほうへとまっすぐ歩きだした。木々をいくつか抜けたところで、彼女が言った通り、僕の家があった。
安堵したからだろうか、疲れがドッと押し寄せてくる。
僕はベッドで横になり、すぐに眠りについた。
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