造歌。

木田りも

造歌

小説。 造歌。



大学3年の秋。ある一つの短歌を作った。それは忘れたくても忘れられない高校の時の間違いなく青春と言えたあの時のことだった。

君がいて、花火をして、ただそれだけで胸がいっぱいになる。今、何してるだろうか。


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(行け行け!行け行け!)


非常に困っている。周りのガヤの心の声がうるさい。

今何が起きているかというと、僕のクラスのメンバーたちと、学校祭の終わりに打ち上げをして花火をやったんだ。これがいけなかった。僕は思ったことや、考えていることを割と口に出すタイプであることを知ったため、今日のこの瞬間を迎えることはなかば必然のようなものだった。事情を知った男友達が、女友達にもけしかけ、君と僕とを2人ペアのようにさせるようになったのだ。察しの悪い人たちでも理解してしまうくらいにはわかりやすい構図だろう。どうしてこうなった。困った。


きっかけは何気ないことだった。4月がきて始業式の朝。クラス替えをした君は下駄箱を間違えたのだ。君が僕の下駄箱に入れていて、僕が困っていると、君ははにかみながらごめんと言って自分の下駄箱に戻した。ただそれだけなのに、今まで曇っていた心が晴れたような気がした。それ以降、君が近くにいるたびに話をしてしまう。君は誰にでも優しくて、心からの笑顔と幸せを周りに与えることが出来る人だ。好きであると同時に尊敬までしてしまう。だから、そんな君と一緒に居られるだけで幸せだった。


もうすぐ夏が来る。学校祭だ。僕たちは出店をやることになった。焼き鳥だったり、焼きおにぎりだったり、焼きそばだったり。なんだか、焼いたものばかりだけど、凝った調理器具なんてないのだから仕方ない。僕は君と同じになるために、装飾係を選んだ。僕の友達たちには不思議がられたが、君と同じ空間に少しでも長く居たいという思いが勝った。


風船を膨らませたり、カラーセロハンでステンドグラスを作ったり。絵の上手い君は黒板アートをやっていた。担任の先生からも褒められるくらいに素晴らしいものだった。たまに帰りが遅くなり一緒になった時に、10分くらい会話をするのが好きだった。と言っても、あえて残っているというのがバレないように、掃除をしたり片付けをしながらついでに会話をしているという体で君との時間を過ごした。その時から部活をやっていた同級生たちは窓から僕たちをニヤニヤ見ていたらしい。というのは後で知ることになる。


学校祭。途中、強風で火が消えてしまったり、焼き鳥が売れすぎて足りなくなったりしたけど、大成功と言える結果に終わった。ダンスパフォーマンスをしたり、演劇部の公演を見たり、同級生が作ったバンドを目の前で応援したり。とても楽しかった。終わった後、クラスで打ち上げをすることになった。


バイキングに行き、少し騒いだ。店員さんはたぶん嫌だったんだろうなって思う。あの時はすみません。バイキングも終わり店の前に出る。終わってしまった喪失感と焦燥に駆られ、何人かが、花火をやろうと言い出した。明日は普通に学校があるため、残りたくても家が遠くて残れなかった人や門限があって帰った人もいたが、10数人は残り、君もいた。それで、先に書いたあの状況になったというわけであって。


そんなことは今はどうでもいいのだ。周りの期待感に溢れた目とこの状況には耐えがたいものがある。「綺麗だね」って言う君に、君の方が綺麗だよなんて言うのは流石に気が引ける。しかし、何か会話をしなくてはならず、「色の調合にセンスがあるよね」と美術家を履き違えたようなことを言ってしまった。君は「何それ」と笑う。とてもいい雰囲気だった。本当にとてもいい雰囲気だったのだ。


「俺ね、写真好きなんだ。」唐突に言った。君は驚く。続けて「特に、好きな人を撮るのが好きなんだ。」……「君をこれから撮る人になってもいいかな?」


この雰囲気が頂点に達して、君と目が合って、君が口を開いたその瞬間に、僕が持っていた線香花火は落ちてしまった。


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大学3年の秋。

短歌を作る講義があった。

お題は、

「青春」「夏」「学校」

など、いくつか候補があった。この3つの単語から僕はある1人の女性を思い出し、一つの短歌を作った。



ごうごうと 線香花火 あの人と

パチリ。写真。 ポトリ。落ちた。



今日は同窓会がある。今はバイキングで騒ぐこともないし、もう仕事してる人もいるだろうから、ご飯を食べたらすぐ解散だろうけど、また花火をやりたいなんて、心の隅で思いながら君が来るのを待っていた。


きっと僕にとっての青春はあの夏に全て詰まっている。あの夏を超える思い出は、もうきっとどこにもない。






おしまい。






・あとがき。

この短歌は実際に私が作ったものです。本来は恋の始まり、きっかけという意味で作り、自分の中では良い短歌になったと思っていました。しかし、恋には終わりがあることを何度も知り、繰り返したおかげ(?)か、この短歌を、恋の終わりに繋げ、再考しました。人生には儚い瞬間がいくつもあって、止まらない時間の上にしがみつく僕たちの忘れ去られた学生時代。きっと思い出だけがこうして生きていて、フッと、例えば夢の中とかから現れてくるのだろうと感じたのです。


今回はいわゆる僕が思うエモさを全開にしてみました。僕らしくない小説だと思うけど、たまに良いなって思いました。


読んでくれた皆様に感謝します。

今日がより良い1日になりますように。

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造歌。 木田りも @kidarimo777

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