第1章 2 一人暮らしも7年目

 アパートを出た私は特に行くあても無かったので、ブラブラと駅前通りを歩きながらウィンドウショッピングを楽しんだ。雑貨屋さんに入って最近流行りのアイテムをチェックしたり、人気のスイーツ店の新作を覗いてみたり…。でも私はそれらを一切買うことはない。何しろ私は高卒で大した給料も望めない小さな会社の一般事務員。色々給料から天引きされて、実際にもらえるお給料は15万円ちょっと。

そこから家賃が月々5万円の光熱費…諸々の出費を考えると、毎日の生活はカツカツだった。


「せめてもう少しお給料が上がればな〜。副業もっと頑張らなくちゃ、欲しいものも買えないし…」


ブツブツぼやきながら歩いていると、突然お腹が空いてきた。いつもなら節約のために外食なんかしないでアパートに帰っていたけれども、今はお隣で引っ越しの真っ最中。


「きっと今頃帰っても…引っ越しの真っ最中で煩いだろうし…よし、今日は思い切って外食しよう!」


そして踵を返すと、駅前に最近新しくできたカフェへと向かった―。



****


「お待たせ致しました」


女性店員が私のテーブルに注文した料理を置いてくれた。


「ありがとうございます」


頭を下げると会釈され、女性店員は去って行った。


「う〜ん…美味しそう…」


テーブルの上に乗せられた料理があまりに見事だったので、バッグからスマホを取り出した。


カシャッ


すぐに画像をチェックして、中々良いショットに笑みを浮かべる。


「うん。上手に撮れてる」


さて、それじゃ食事をしようかな。


早速傍らに置かれたフォークに手を伸ばした。


私が頼んだのは、本日のお勧めのワンプレートランチだった。トマトにレタスのホットサンドが3枚、レタスとトマトのサラダ、コーヒーがセットで税込み価格500円。


「これで500円なんてお得じゃない?いただきま~す」


そしてサンドイッチを手に取り…ふと周囲の視線に気付き、辺りを見渡した。

すると、私のテーブル席に座っていた人達がサッと視線をさらせていく。

恐らく私の独り言が気になってこちらを見ていたのかもしれない。


…しまった。つい、いつもの癖で独り言を口にしていた。


私は一人暮らしが長いせいか、つい独り言が増えてしまう。

児童養護施設にいた時は、先生や仲間たちが一緒だったから寂しいことは無かったけれど、高校を卒業して地元の会社に就職したことをきっかけに私は施設を出た。

そこから7年間、ずっと一人暮らしを続けている。つい一人暮らしの寂しさから独り言が増え…店の中でもうっかりして独り言を口走ってしまいがちになる。


いけない、いけない。ここは家じゃないんだから気をつけなくちゃ…。


「…」


その後私は黙って食事を続けた。食後はコーヒーをゆっくり飲みながら、結局午後2時まで店内で粘ってカフェを出た。


「…もう引っ越し…終わっている頃からな…?よし、戻ってみよう!」


そして私はアパートへ足を向けた―。




「引っ越しトラックは…あ、良かった。もう帰ってる」


アパートの前に止められていたトラックはいなくなっていた。アパートの2階を見上げれば、扉は閉じられている。


「…もう引っ越し作業終わったのかな…?それにしても早過ぎない…?」


首を傾げながらも、アパートの階段を登って私は自分の部屋へと戻って行った。部屋に入る直前にお隣の様子を伺ってみたけれども、いるのかいないのか…しんと静まり返っている。


片付け…終わっているのかな…?


いらぬ心配をしながら、鍵を開けて扉を開いた。



部屋に戻った私はネットでライティングのアルバイトに2時間程費やした。

その後、洗濯物を取りこで畳んでいる時に事件は起こった。



「クソガキがっ!!」」


突如男性の怒鳴り超えと共に、続いて何かが激しく床に倒れ込むような振動が部屋に伝わってきた―。




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