病室へ

寮母さんが、私が夜中に到着すると病棟の看護師さんへ伝えてくれていたので

ナースステーションへ行くと、すぐに息子がいる病室へ案内された。

遅くなったことをお詫びしながら病室へ入ると


 息子は床に横になっていた。ベッドから転落した様子だった。

ベッドの上に左の靴1足とベッド柵が斜めに置いてあり

もう一つのベッド柵はベッドの向こう側に外されて置かれている。

布団はもちろんぐちゃぐちゃ。


すぐに息子に駆け寄って

「よくがんばったね。もう大丈夫。お母さん来たよ。」

声をかけて、頭を撫でた。目は開かない。けれど、自発呼吸はある。

頭にキズやこぶ等はない。どこを触っても出血もない。

背中や腕も触ってケガはない様子。

看護師さんに足をもってもらい、ベッドへ横にして、

全身を確認してケガがないことをもう一度確認した。

ベッド柵を戻し、右の靴はベッド下に転がっている。

靴を左右揃えて部屋の端っこへ。


 横になっていた床はあたたかい。結構な時間を床で過ごしたのだろう。

帰ろうと思ったのか。靴を履こうとしたのか。

首から下が麻痺していると聞いていた。完全な麻痺ならベッドから転落はしない。

ベッド柵の外し方は、無意識にやったような形で無造作に置かれている。手に力を入れられたのだろう。完全な麻痺でもないのかもしれない。

見る限り、頭や顔にキズやあざはない。頭から落ちたわけではなく、足を床について力が入らなくて崩れ落ちたようになったかもしれない。

寮母さんがいた21時から私が来た1時半までの4時間半の間の行動。

21時は意識があって大丈夫と会話していた。今は意識がない。

メールでの息子の状態と今の部屋と息子の状態で何があったのか・・・


「何時までベッドにいましたか?」と看護師さんへ聞くと

はっきりと時間を言わなかった。時間で巡視をしていれば、

「〇〇時」と答えられるはず。あいまいな言い方しかしなかった。


看護師の仕事モードの私だったら、転落させたこと、巡視は何時にしたのか等きつく問い詰めただろう。


でも、今は母親モード。

息子が目の前にいるだけで良かった。ケガもしていない。


 息子の身体が熱かった。熱は無いと言われていたが、測ってもらい

「39.5度」氷枕をお願いした。

頭をずっとなでていた。もっと学校休めばよかったね。ごめんね。

謝ることしかできなかった。


 しばらくすると息子はケポッケポッと吐き気が出てきた。

すぐに身体を真横にした。入院セットバッグは車の中に置きっぱなし。持ってこなかったことにこの時に気づいた。タオルやビニール袋などが無いから、とっさに枕カバーを外して枕カバーに吐かせ、ナースコールを押した。


頭を打ったかな・・・ちょっと心配になった。


大丈夫、そばにいるからね。目が覚めたらまたびっくりするかな。

頭をなでて過ごした。

この病院は付き添いができると聞いてものすごく安心した。


 意識がないけれど、ちゃんと呼吸ができている。

息子を見ながら

 (呼吸があるなら大丈夫)

なんの根拠もないけれど、また元気になると感じるものだけはあった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る