敵情視察(硝子視点)


「でぇー?あの完全回復持ってる奴は見つかったのぉ?」


「無駄足だった」


「あっそ。あいつの能力があれば、簡単に兵器を量産できるんだから、さっさと見つけてきたら?」


五年間。俺は五年間このカス共の言う事を聞いてきた。ハッキリ言って、こいつらは無価値の屑どもだ。何もできないくせに、言う事だけは一丁前に偉そうな奴らばかりだ。


「第一、お前じゃなくて『ラバス・ツー』に頼んでもよかったんだからな?お前が行くって言ったから俺たちは行かせたんだからな?」


「そのくらいは理解している」


「じゃさっさと連れ帰って来いよ!そのくらいしかお前には出来ないんだからよぉ!」


この五年間の間、何度こいつらを殺してやろうかと思ったか分からない。小さい犯罪者集団が、一点に集まっているだけで、ハッキリ言って強いとは全く思えない。


「フェーイ!帰ったぞぞぞ!」


「うるせぇぞラバス。静かに入れ」


「おっと、もしかしてパワハラ中?じゃ帰っちゃお」


完全回復の持ち主はどこにいるかは、既に知っている。だがこいつらなんぞに教える気はない。どうせ今日この組織は壊滅するのだから。


「じゃもう帰れよ!とっとと完全回復の使い手攫って来いよ!」


ラバスともう一人には既に、交換条件を持ちかけている。俺の目的はあの町に復讐するだけだ。それが終わればあの完全回復の使い手がどうなろうが知った事ではない。


「ハァー…。ところで、俺の能力知ってますか?」


「は?お前無能力者じゃねぇのかよ?」


「俺は能力者ですよ」


今俺の体は大量の硫酸で満たされている。体が硝子で出来ているから出来る芸当だ。


「おい何掴んでんだお前!」


「もう俺は偽ることをやめた」


そして、俺の体は簡単に砕け散る。中の液体を飛散させながら。


「ああああぁぁぁぁAA!?」


顔の半分が硫酸で焼けた奴を後目に、続いて目一杯にガソリンを詰め込んだ眼球を投げつけ銃撃。


「やめっ」


この場が一瞬で火の海になった。でまぁ逃げた奴も何人かいるようだが、その辺はあいつらに任せている。


「ねー。何がでっかい音なったんだけどー。これ決行って合図でいいの?」


「あぁ。これからこの組織は壊滅させる」


「ヒャッホー!嬉しいなぁ!じゃこの組織にいる女と言う女をラバースーツ化させてくるから!後の事は任せたぞっ☆」


「死ね」


こいつは気色が悪いが、少なくともわかりやすい奴なので重宝している。だがもう一人が賛同するかは運しだいと言うべきか。


「よぉ硝子」


「来てくれたか『オルミグル』」


「あぁ。ここの武器はあらかた俺に突っ込んでやったから、もう奴らどうしようもないんだぜ?」


「と言う事は賛同すると」


「あぁ。最近、なんでも弾く盾を持ってる奴がいるって噂でな、そいつの武器が欲しいんだよ。ただこいつらは俺の事を武器庫程度にしか使ってなかったんでな。……お前のがまだマシだ」


相変わらず減らず口は達者だなこいつは。だが強さは俺より強い可能性がある。


「ところでさ、なんで腕無いのん?」


「さっき自分で折った。どうせ戻るから気にするな」


「お前も能力者だったのか。今までなぜ隠していたんだ?」


「今日この日のためだ」


「成程了解。じゃ適当に憂さ晴らししたら行くか」


この二人が仲間にいる以上、瑠莉奈の奴に負けるとは思えない。……だが、奴には俺の能力を教えてしまっている。あの時顔を見せたのは間違いだったか。


「さて。ラバス、とりあえずそのラバースーツは捨てろ」


「えっ!?これ最高傑作なんですけどぉ!?これをもっていかないなんてとんでもない」


「ボコボコにするぞお前」


「( ノД`)シクシク…」


うーん。こいつを仲間に入れたのは間違いだったのかもしれない。まぁいいや、最悪こいつは切り捨てても困らないタイプの奴だし。替えはいくらでもいるんですよお前の。


「んじゃー行くとしますかねぇ!」


「お前が言うな」


「少なくともお前は指示する立場じゃねぇ」


今回の事件は、どうせ組織内で内部崩壊してとんでもない事になったと言うオチになるだろう。そうなるよう仕向けていたからだ。


「目的はこの『海』と言う女だ。手段は問わない、誰を殺そうが、誰に危害を加えようが、手に入れろ」


「あーい了解!」


「あぁ、わかった」


正直。瑠莉奈とは戦いたくはない。一年間とは言え、まともに話した相手はあいつだけだった。


「だがもし敵として戦う事になったら……。殺してやる」


そのくらいしか、俺にはすることが無い。

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