過去と未来のハザマにて


「あいつとは今から五年前に出会った。思えばあいつはあのころから既に復讐に乗っ取られていたんだろう」


硝子砕がらすさい』。奴との出会いは衝撃的だった。あいつは俺の家の前で死にかけていたのだ。そこで暇だったので救ったと言うのが俺と奴との出会い。


「だが、それだけだ。一度救ってしばらく過ごしただけの男。それ以上に奴に関する何某は無い」


「そうなんですか」


「あぁ。ただ、あの時からずっと、ずっと恐ろしくおぞましい奴の目を覚えている」


しかしどうでもよかったんであんときはほっといたが、今となってはあの時止めていればよかったんだろうか。あいつはプナの奴が危険人物リストとして挙げていた人物の中にいた。


「プナが入っていたとあるグループの中で、一番ヤバかったのが硝子だ。警察も既にマークはしている。だから逃げてきた」


「そ、そうだったんですか。いきなり走り出すのでどうしたのかと思いまして」


「そりゃ悪かった。ただ少なくとも安全第一なこの状況で、硝子に福音の顔を覚えさせるわけにはいかなかった」


「よぉ安達太良」


一応盾我の事は呼んでおいた。何かあったら硝子をボコボコにする為である。と言うのも厄介極まりない事に、硝子の能力はひたすら面倒くさいのだ。しかし盾我であれば一発殴っただけでも致命傷だ。


「で、なぜ呼んだ?」


「簡単に言えば敵が接触してきたのだ」


「成程。誰かは分かっているのか?」


「名は硝子砕。厄介な奴だ」


さて情報共有をした所で俺らは帰りましょ。ラスの服持ってかないとね。


「ありがとうございます!」


「まぁまぁ。今はここにいる以上衣食住は何とかしてやるよ」


「はぁ……」


まだ衣食住も知らないのか。と言うか基本的に重要な事教えてくれないからなぁ学校は。まぁいいか、そう言うのは。


「で盾我は帰って来たか?」


「あっはい。あっちで何かずっと作ってるんです」


「……何を?」


「分かりません……」


分からないんだ。何なんでしょうか。いや何作ってんだ盾我……。まぁいいか、とりあえず今やるべきことは、硝子対策だ。出来るだけ戦いたくは無いが、あの時の表情は明らかに福音を襲いに来たって感じの顔だった。


「本気で旧友を手にかけるかもな」


「だ、大丈夫なんですか?」


「大丈夫だ。旧友という程の仲じゃない」


口ではそう言えるが、実際一年間くらい一緒にいたからちょっと戦いたくはない。でももし敵になるってんなら、俺は硝子をぶっ潰せる。


「じゃジジイ後は頼む」


「了解しました」


俺は盾我の様子でも見に行くかな。何か作ってるってんなら、それが何なのか気になるしな。


「よぉ盾我……って、何作ってんだ?」


「あぁ。以前鵬と言う男にこっぴどくやられてな。……盾だけではお嬢様を守れないと、悟った」


「で、新しい武器を作ってる……ってところか?」


「そう言う事だ」


うーん、多分剣なんだろうけどさぁ。明らかに変じゃない?具体的にと言われると……。色が。なんかどす黒くない?明らかにヤバい物入ってない?


「それ何をベースに作ってるんだ?」


「あ?こいつはかつて、妖刀使いが使っていたと言われている剣だ。名前は『影刀えいとうきょう』。それを再現した剣を作っている」


「どうやって?」


「俺には、はるか昔から妖刀を作っている奴の血が流れているらしい。血を調べる前に捨てられたんで分からんがな」


こいつもこいつで結構悲惨だよな。本人がそんな気にしてないからいいけどさ。


「じゃ、邪魔になりそうなんで俺は帰るからな」


「あぁ了解。ところで硝子とやらについて一つ分かった事がある」


「マジで?何が分かったんだ?」


「あぁ、奴がお嬢様をどう使おうとするかだ」


盾我の話は長かったので、簡潔に話を要約すると、


『硝子は自分の故郷に福音の能力を使い、強制的に再生させようとしており』


『明らかにこれは私怨でしかない。間違いなく今いる組織を裏切る気満々である』


『こんな奴にお嬢様が攫われようものなら、間違いなく酷い目に合うだろう。なので攫わせない』


……。との事だ。やはりと言うか、なんと言うか。奴は復讐だけを目的に生きてきたらしい。この五年間、奴が何をして来たのかは分からない。だが俺が噂でしか知らなかった『完全回復』の使い手を見つけたと言うだけで、奴の執念を感じる。


「その剣はどのくらいで完成できる?」


「素材は大量にある。一週間で出来上がる予定だが、どうなるかは分からん」


「成程」


うーん。しかしどうするかなここから。奴らが動かない事には、俺らは何もできないと言うのは事実。かといって福音をわざわざ危険にさらす意味は何一つ存在しない。


「俺がやることは変わらない」


ただ福音を守るだけの話だ。今の俺にとって、生きがいと呼べるものはあいにくそれしか持っていないのだから。


「そして硝子。もしお前が本当に福音を狙っているのなら……。俺はお前を、殺さなけりゃならんのかもしれない」


正直。それだけは勘弁して欲しい所だが。

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