第4話 月曜の朝は謎の予感
「レ・ミゼラブル」
「ルドルフとイッパイアッテナ」
「な、な……ナルニア国物語……」
ナルニア国物語は前に花野に降参させられた物語だ。忘れるわけがない!
「リトルマーメイド」
「ど⁉︎ど、ど……どっどど どどうど どどうど どどう」
「それは、宮沢賢治の風の又三郎だろ?ほら、和樹、ど、から始まる物語だぞ?」
「……降参です」
今は花野と物語しりとり中……ではなく、俺の友達、草田大地と物語しりとり中だ。
「そんなんじゃ、陽菜ちゃんに勝てないよ?」
「陽菜ちゃん⁉︎いつのまに、お前そんな仲良く……」
花野陽菜は俺と同じ時間帯のカウンター当番だ。大地と陽菜は一回だけ会ったことがあるのだが…まさかあのときからここまで距離を詰めていたとは。
「もし、ジャンケンに負けてこの時間帯になれなかったら、俺陽菜ちゃんと同じがよかったな〜」
「……はぁ、それにしてもあの時、お前にジャンケンで負けるなんてなぁ……」
はじめての図書委員会、カウンター当番決めをした時、週の初め、月曜日の朝のカウンター当番担当になりたかった人は全員で5人ほどいた。順調に勝ち進み、ついに俺と大地だけが残って……。
「あそこでグーを出さなければ……」
「残念だけど、俺が勝っちゃったからね〜。まぁ、しょうがないよ。こればかりは神様からのお・ぼ・し・め・し」
チッと舌打ちをしそうになるのを抑えながらため息をつく。
「いいよなぁ、この時間帯は。大した仕事なんてないんだろ?」
「いや、あるよ。新着資料を新着コーナーに飾ったり、督促状…は確かにないな。あと、ポストに返却されてた本を返却したり……あ、あと、貸出手続きをしたり」
貸出手続き?それはないだろ。
周りを見渡すが、図書館内は閑散としていて全く人がいない。
絶対にないだろ、と言おうとした瞬間……。
「貸出手続きお願いします」
「ほーら、仕事があったろ?」
スッと差し出された本の持ち主は……。
「花野!」
「陽菜ちゃん、ヤッホー!」
花野はこちらを一瞥して会釈する。
「青葉くん、おはようございます。今日はどうして図書室に?」
「大地に貸してた教科書返してもらいにきたんだ。花野は……本を借りにきたんだな」
花野はコクリと頷く。
「陽菜ちゃーん、俺は?俺は?」
「……貸出手続きお願いします」
そのままもう一度、花野は本を差し出す。
「ひどい!俺は無視⁉︎」
「これだから、月曜日の朝の図書室には行きたくなかったんです……」
「なら、来なければいいんじゃないか?」
「青葉くんはこんな人のために楽園へ行くのをやめろというんですか?」
熱も冷えつきそうなほど冷たい視線をこちらによこし花野はため息をつく。
「まぁ、別に放課後でもいいんでしょうけど。あ、気になるなら考えてみてください。なんで私がわざわざ月曜日の朝に本を借りるのかを。青葉くん、謎解き得意でしょう?」
「え?いや、待て待て!謎解きっていつもは花野が一緒に……」
「私が出題してるのに私も解いてどうするんですか。草田くんと2人で解いてください」
少しイライラしているのかつっけんどんに花野はそう答えると近くにあった椅子にどしりと座った。
「なんであんなにイライラしてるんだ?はじめて見たぞ、花野のあんな姿」
「それを聞くのは野暮ってもんだぜ?ま、考えよう、ほら和樹、なんか思いつくことないのか?」
こいつ自分で考える気ゼロかよ。というか、イライラしてるのも大地のせいだったりして……。まぁ、いい。一旦考えよう。
そもそも月曜日の放課後に何かあるんだろうか?
「なぁ、花野は毎週月曜の朝に来るのか?……あ、いや、覚えてなかったら大丈夫だ」
「あぁ、毎週に来てるよ」
なんで覚えてんだよ、こいつ。もともと記憶力がいいやつだとは思ってたけど、ここまでとは…。
「いつからその周期になったかとか覚えてるか?」
「うーん…確か2ヶ月前くらいからだったかなぁ…」
2ヶ月前……か。
「その頃何があったっけ?」
「ちょっと、待て。手帳見る」
手帳には、研修生来る、スポーツ大会、などなど全く関係なさそうなことばかりだ。
「だめだ…全くわからん。なぁ、大地、花野が借りてる本の特徴とかあるか?」
「うーん……あんまり方向性とかはないかなぁ。あ、そういえば、まだ誰も借りたことのない本が多いかな。いつも返却期限のハンコ押す時、一番上に押すことが多いから」
「花野、今日借りた本見せてもらってもいいか?」
「どーぞ」
花野の差し出した本のタイトルを確認する。
『5分で英語がペラペラに!カメでもわかる、語学教室』
『世界の名作集25 』
『走れメロスの真実〜物語には裏ボスがいた⁉︎〜』
「……方向性がバラバラだな。大地、どう思う?」
「さぁ?」
ちゃんと考えろよな……という言葉をなんとか飲み込んで俺は考える。
「あ、単純に土日挟んで読む本がなくなったから借りてる……とか?」
すると花野はプクゥと頬を膨らまして答える。
「私はそんなヘマなんてしません!図書館がもし閉まっていても大丈夫なように、家から読んでない本をたっくさん持ってきてますよ。だから、借りるなら放課後でも全然大丈夫です!」
……うん、花野の本への熱意はわかった。あと、とにかく行き詰まったのも。
「あと青葉くん、早くしないと朝のSHR(ショートホームルーム)がはじまりますよ?遅刻します」
それは困る。急いで頭をフル回転させる。
「もしかして、放課後に何か用事が?いや、月曜は週の初めだし定期的に起こる用事なんてないはず。なら、家の用事か?いやいや、もっとあり得ないだろ。花野の用事なんてそもそも俺が知るはずないのだから解けないし……」
「ひーなちゃん、これそもそも俺たちにわかる?」
すると花野はムッと顔を顰める。
「草田くん、陽菜ちゃんはやめてくださいと何度言ったらいいんですか?そして、私が青葉くんにとけもしない問題を出したとでも?草田くんにならまだしも青葉くんには出しません!……まぁ、図書委員についてちゃんと知ってなかったら無理ですけど」
本当に大地と何があったんだ……と言いたいけどもそれ以上に花野が最後に大事なことを言ってくれた。図書委員について知ってなかったら無理ということは、原因は図書委員にあるということになる。
確か、花野が月曜の朝に来るようになったのは2ヶ月ほど前。その時は図書委員で何かがあったのか?
「確か、その頃は……あぁ、顧問の先生が変わったな」
「そういえばそうだな〜。確か関先生になったんだよな」
「えぇ、その通りですよ。いいところに目をつけましたね」
ニッと意地の悪い笑みを浮かべて花野はそう告げた。
関先生になったことが関係あるのか?関先生って言ったらバレーボール持ってファイトー!とか言ってるとこしか思いつかないのだが……。
「というか関先生があんまり図書委員の先生として何かやってるって印象ないしなぁ……」
そう呟き花野の様子をチラリと見てみる。するとニコリと笑みを深めて花野は告げた。
「関先生は、無駄に張り切って、ちょっと何かしただけで仕事した気になりますからね」
女は笑顔の裏に悪魔を飼っているらしい……。
垣間見れた怒りに俺はブルリと震える。
関先生が仕事をしないことも、関係あるのだろうか?
キーンコーンカーンコーン
「「あ……」」
SHR、5分前のチャイムをきき、俺と大地は思わず声を上げる。
「時間切れですね。正解は…」
「ちょっと待ってよ、陽菜ちゃん。そろそろわかりそうな気がするんだ」
「俺もだ。あと、一押し」
関先生へと担当の先生が変わったこと
花野が朝に来ないといけないこと
借りる本は特に方向性はないこと
返却期限のハンコを一番はじめに押すことが多いこと
そして、確か二ヶ月に図書委員関係で俺も何か変わった気がする。あぁ、そうだ、確かその時、花野が関先生に直談判するっていいに言ったんだ。何をだ?あとちょっとで思い出せそうなのに!
「あと、少しで何か……」
「はーい、時間切れです!遅刻しますからそろそろ行きますよ!」
大地はブーブーと文句を言いながら図書室を出て行く。
「あ、俺図書室の鍵、職員室に取りに行かなきゃいけないから先に行ってて」
そう言い残すと大地は職員室へと走っていった。
「はぁ……時間切れかぁ……」
解けなかったことに落胆しながら俺は図書室を出る。
「で、正解はなんなんだ?」
フフッと微笑むとくるりと振り向き図書室の一点を花野は見つめる。
「ん?……あっ」
花野が見つめていたのは新着資料が置かれている新着コーナー。
そうだ、確か関先生が委員会で唐突に「新着資料は週の初めの月曜の朝に置こう!」とか言い出したんだった。それまでは水曜の放課後に新着資料を置いてたから花野が関先生に文句を言いに言ったんだった!
「大した謎じゃないじゃないか……ただ、新着資料を早く借りたいだけだなんて」
「まぁ、そう言われてしまえばそうですね。でもそんなこともわからないなんて青葉くん、少し頭が鈍ってません?」
最近は謎解きなんてしてなかったしなぁ。頭が鈍るのもしょうがないだろう。
「あ、そういえばなんで今日の朝はイライラしてたんだ?」
そこまで言って大地に「それを聞くのは野暮ってもんだぜ?」と言われたのを思い出し、急いで口をつぐむ。花野はムッと口を尖らせながら先ほどの俺の質問に答える。
「実は、誰にも借りられないうちに新着資料借りちゃおう!と思って朝早くから図書室にきたんですけど新着資料が今日は一冊もなかったんですよ!ガッカリです」
花野にとっては大した理由なのだろうが俺にとっては大した理由じゃなくてホッと息をつく。
いつも通りの花野がやっぱり落ち着くな。
そんなことを思いながら歩いていると前から関先生が歩いてきた。
「おはようございます、関先生」
そう言った花野の姿を見て関先生は何かを思い出したように頷く。
「そういえば花野さん、この前言ってたこと採用しようと思います」
「……えーっと…この前っていつですか?」
「ほら、二ヶ月ほど前に新着資料を水曜の放課後にしてほしいって言ってでしょう?」
花野は目を見開き少しした後、口を緩ませる。
「ありがとうございます!!」
「いえいえ、元々を言えば先生が勝手に月曜にしちゃったことが問題でしたしね。それじゃあ、二人とも遅刻しないように」
そう言い残すと関先生は去っていった。
まだボーッとしてる花野が面白くて俺はフッと思わず笑う。
「なんで、笑うんですか!」
「いやぁ、よかったなって思って」
「……そうですね。あ、ごめんなさい。勝手に水曜の仕事増やしてしまって」
「いや、いいよ、別に。思いのほか楽しいしな、図書委員の仕事は」
その言葉を聞くと嬉しそうに花野は胸を張る。
「と、言っても関先生への評価変えてやってもいんじゃないか?」
「そうですね……。まぁ、好感度+1000といったところでしょうか」
それ、マックスってどのくらい?
「あ〜、楽しみですね、明後日の図書委員!」
「そうだな。やっぱり謎解きは花野と一緒が一番やりやすいしな」
それに何か答えようと花野が口を開いた瞬間……。
キーンコーンカーンコーン
無情にもちょうど響いたチャイムの音に俺たちは走る羽目になった。
「図書委員の仕事してたって言ったら遅刻にならないことは可能だと思いますか⁉︎」
「それは……無理だろ‼︎そもそも俺ら図書委員の仕事してねーし‼︎」
と、言い合いながらも俺たちはどちらともなくふきだした。
「健闘を祈ります!」
「花野もな!」
そう言って俺たちはお互いの教室へと走っていく。
俺たちの暇な日々はこれからも続く。
図書委員の2人は暇で暇でたまらない 桃麦 @2375509
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