65『【#オンライブフェスDAY1】次の出番までステージイベント見る枠【宵あかり】part2』

『――どもども〜オンライブ二期生、飛風とびかぜツバサっす!』

『オンライブ三期生、秋風あきかぜ紅葉もみじだ。よろしく頼む』


『うおっ、始まっちゃってる! 百々ももちゃ、早く早くっ』

『はいはい』


 泉水いずみさんからの呼び出し(別に説教とかではなかった)を辛くも乗り切り部屋へと戻ってきてみれば、もう次のイベントが始まってしまっていた。

 百々ちゃの手を引きながら慌てて席へと座り、イヤホンを装着。幸いにもまだ挨拶をしているところらしい。つまりは序盤も序盤。これなら見逃してる場面はなさそうだ。


【お、帰ってきた】

【しっかり怒られてきたか??】

【仄ちゃんがおせいそ晒しただけで宵は悪くないだろ!】

【おかよい】

【百々ちゃ!?】

【百々ちゃ来てるやん!】

【百々ちゃの「はいはい」って返事ママ味が深い】


『ん、私もあかりに呼ばれてイベントのリポートをしに来た。がおー』


 百々ちゃは今日は出番こそないものの、明日の打ち合わせやら、裏方の手伝いやらをしていてかなり忙しかったようだ。

 手が空いたと言ってオレの…というか神無月かんなづきさんの突発企画に顔を出しに来てくれたわけだが…正直百々ちゃって働きすぎじゃない?? ちゃんと休んでほしいよね。オレなんてこうしてお菓子食べながら配信見てるだけなのに。


【取って付けたようながおーすき】

【この唐突ながおーが俺を狂わせる…】

【この調子で他の三期生も集まれ】


『まおー様は明日のために精神統一してるし、ゆいなはほのかをしばいてるし、仄はゆいなにしばかれてるからちょっと無理かも』


【ええ…?】

【まおー様明日大魔法でも唱えるのかな?】

【しばかれてんの仄ちゃん!?】

【しばかれてるで草】

【字面で既に面白いんだよなぁ】

【百々ちゃの口からしばくとかいう言葉が出てくるの卑怯だろ】

【それも配信しろ】

【ついでだから宵もしばけ】


『ついでってなんだよ!!』


 唐突にオレへと降りかかった火の粉を払いつつ、イベントに出ている二人のことを考える。飛風先輩はボーイッシュな見た目をした活発な美少女さんだ。表情と共に話題がコロコロ変わっていく彼女の配信は見ていて飽きない。どちらかと言えば彼女は振り回す側であり、振り回されることで美味しくなる秋風さんとはある意味相性ピッタリだ。とはいえ秋風さん本人としては大変だろうけど…大丈夫かな、秋風さん…。


『そういえば気になってたんすけど…そのメモ帳ってなんすか?』

『な、何でもない、本当に何でもないから気にしないでください…!』


【こーよーまたしてもカンペバレしそうになってる…】

【これもうバレたようなもんでしょ】

【こーよーの敬語初めて聞いた】

【ツバサは悪気とかなく素で聞いてそう】

【前回は自爆だったからちゃんと成長はしてるな!】


『カンペバレ本人は恥ずかしがってたけど、今思うとちゃんと準備してるってことだから秋風さんはすっごいえらいと思う』


 行き当たりばったりなオレと比べたら本当にえらい。まぁオレと比較される時点で秋風さんとしてはちょっとアレかもしれないが…。


【急にママになるな】

【ママの前でママになるTS美少女Vtuber】

【宵ってこーよーには甘いよな】

【宵に庇護対象として見られてる紅葉の心境やいかに】

【バブみを感じて喜んでそう】

【TS美少女Vtuberママ!?!?】


『ん、あんまりこーよーを甘やかしちゃダメだよ。その…戻って来れなくなっちゃうから…』

『はーい…』


【戻って来れなくなるってあのおぎゃりモードから??】

【百々ちゃの言い方がこーよーの状態の深刻さを物語っている…】

【百々ちゃの言葉を選んでる感よ】

【宵のバブ味は劇毒】

【なんでちょっと不服そうなんだ宵】


 なんでって…そりゃあ…。


『頼りになる大人の女の人が自分に甘えてくるっていうか溺れてくる? …のってさ、正直めちゃめちゃ良くない…?』


 百々ちゃが風邪を引いちゃった時にも思ったけど、自分にしか見せないそういう姿ってなんか妙にクるものがある! わりと最近自覚したNew! が付く性癖だ。


【それは確かにとても良いが…】

【頼りになるかなこーよー…】

【性癖がピッタリマッチしたな…】

【ママがいる前で性癖暴露するな】

【もっと取り繕え】

【お前前回オギャられた時はドン引きしてなかったか??】


『性癖は増えるものでしょ。ね、百々ちゃ。…百々ちゃ…?』

『私も頼りになる大人の女性』

『えっ??』

『私も頼りになる大人な女性だよ、あかり』


【そういえば隣にいるのは肉食獣だったか…】

【ママであると同時に捕食者】

【ね、百々ちゃじゃないが??】

【これは宵が悪い】


 そう言うと、百々ちゃが椅子から身を乗り出してぐっと体を寄せてきた。…かつて敬語をやめさせられた時のような圧といい匂い…たぶん香水なのかな…を感じる…ってそうじゃなくて!


『ほ、ほら百々ちゃ! 今はちゃんとリポートしないと! 秋風さん心配だし! ね!?』

『…今はそうする。こーよー心配だし』


 なんとか誤魔化されてくれたようだ。助けてくれてありがとう秋風さん…!


【草】

【こーよーの心配が勝ったか】

【どんだけ心配されてるんですかね…】

【「今は」】


『てわけで、2-Aの問題児である自分と、委員長な秋風さんの二人で会場に来ている生徒さん達のお悩みを解決したり放課後トークをしていくっすよ!』

『自分で問題児だと言っていくのか…』


『…先輩達しかいないイベントにこれからぶち込まれるのですがどうにか壁になってやり過ごしつつ推しのトークを堪能することはできないでしょうか…?』


【無理です】

【ム リ】

【お前壁になりたいけどダメだよなって自分で言ってただろ!】

【地味に要求が多いなお前】

【運営さんは宵を苦難にぶち込むのを楽しんでる節があるからな…】



『周りがみんな先輩で自分だけ後輩の職場…いえ、部活っすか。確かにそれは気ぃ使っちゃいそうっすね』

『ふむ、まぁ上下関係というのは大概どこに行ってもついて回るものだが…それはまた極端だな』


【どっかで聞いた話ですね…】

【偶然なのか宵の配信見てたのか分からんが草】

【職場って言っちゃってるんだよなぁ】

【宵の代弁者】

【宵がすげぇ真剣な顔して見てる…】

【そりゃあ気になるだろうからな…】

【その真剣な顔をステージでも見せろ】


『んー…自分的には気にせず堂々としちゃえって思うんすけど…難しいっすよね。はい、委員長パスっす!』

『えっ!? あ、ああ…そうだな…。逆に考えれば、常に手本となる人が周りにいて、なんでも聞けるということでもあると思う。辛い面もあるかもしれないが、自己研鑽の場として割り切ることも重要かもしれないな』

『ストイックっすね、さすが委員長!』


『………』


【絶望顔宵すき】

【こーよーってたまにちゃんと大人だよな】

【社会の歯車なんやなって…】

【耐えて割り切れ宵あかり】

【宵本人が相談してたら紅葉絶対あまあまな答え返してただろ!】


『ポテチうまー…』


【現実逃避するな】

【こいつずっとなんか食ってるな】

【ストレスが原因と推測される】

【そんな儚げな顔でポテチ食うことある??】

【この世の理不尽を悟ってしまった宵あかり】


『…あかりなら大丈夫だよ』


 百々ちゃがいつものごとく励ましてくれる。うぅ…ママぁ…(秋風さん風)。いっそのこと百々ちゃも連れて行ければいいのに…。

 現実は非情すぎる。もっとオレに優しくしろ。



『ツバサちゃん、秋風さん! 二人ともありがとうっ! この後は私とハルがバーテンダーになってお客様をお迎えしちゃうよ!』

永遠とわ遥歌はるかバーテンダー歴0年。バーテンダーに挑戦します』


 楽しい時間は一瞬にして過ぎ去り、今。どうやらオレの今日二度目の出番がもうすぐ始まってしまうらしい。

 ギリギリまでリポート配信をしてていいようにと、イベント配信用のスタジオの隣にある部屋で配信していたオレだったが、さすがにそろそろ移動しなくてはいけないだろう。


 急激に下がっていくテンションとお腹の痛みを感じながら、配信を百々ちゃに引き継ぐと話せば、返ってくるのは【こいついつも腹痛がってるな】だの【はよ行け】だの【先輩達に迷惑かけるなよ】だの、まるで応援する気のないコメントばかり。とはいえこの日常感のあるコメントが今は精神を落ち着かせるのに役立っている…ような気がしないでもない。


 いってらっしゃいと見送ってくれる百々ちゃへ力なく手を振り…オレは先輩達が待つスタジオへ向かったのだった。

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