番外編『宵すぱ』
勇気を振り絞り、薄目を開けて見てみれば…視界に入ってくるのは服を脱ぎながら談笑する美人さん、美少女さん達の姿。
(い、今の性別を考えれば見たって大丈夫、だから落ち着けオレ…!)
己を鼓舞するように心の中で呟く。一瞬、こちらを見て優しく微笑む
「ここ、一つ一つのお風呂がすっごい大きいんですよ!」
「しかもあんまり混んでないし、これならゆっくりできそうだね」
「こういう所久しぶり」
「私もだ。というか、もしかすると学生以来かもしれない…」
「えっ、ほんと??」
みんなを待たせるわけにはいかないと、もう一度なけなしの勇気を振り絞り視線を前へと向けた。
◇
発端は何だったっけ。少なくとも、今回はオレが配信で何かを言ったわけではなかった…と思う。
…確か配信終わりに三期生のみんなで雑談していた時に、まおー様が最近サウナにハマっているという話をしたのだ。
「サウナいいですよ、サウナ! 出た後のビールが本当に最高で…」
「まおー様ってたまにおじさんみたい」
「サウナの後にお酒ってそれ大丈夫なの?」
「まず間違いなく身体に良くないだろうな。脱水症状の危険があるぞ」
「ちゃんと水飲みなよ、水」
…といった具合にその時はまおー様が集中砲火を受けていたのをよく覚えている。
で、そんな話をした数日後。
au 4G 20:08 ➤97% ▌
< オンライブ三期生(6) ≡
世統まお
https://~
@All ここです!
ちょっと前に話した銭湯!
仄ちゃん
え、めっちゃ綺麗なところじゃない??
全然おじさんっぽい場所じゃないじゃん!
世統まお
だって私おじさんじゃないですからね??
百々ちゃ
みんなで行く?
仄ちゃん
行こう行こう!!!!
柚月ゆいな
急にテンション高すぎでしょ
まぁ私も行くけど
秋風紅葉
私も大丈夫だ
予定なら合わせるよ
百々ちゃ
じゃあ決まり
@宵あかり 日付が決まったらすぐ教えるね
えっ
えっ??
+ ⊡ ◰ Aa θ
いつぞやのように、鮮やかに拉致されることが決まったのだった。
◇
実のところ、行くことが決まった時には不安はあれどでっかいお風呂楽しみだなぁとか普通にそんなことを考えていた。
ママとはよく出かけるけど、銭湯は行った記憶がない。それに夏に見に行った花火と同じで、なんやかんや言ってもみんなでのお出かけにわくわくしてた部分もあったのだろう。
しかし…今この場に来て、心の底から思う。一番大きな問題をすっかり忘れて浮かれていた自分をぶん殴ってやりたいと。
この場…即ち、脱衣所でオレはすっかり固まってしまっていた。理由はもちろん、周りで着替える三期生のみんなだ。
「ひかる…どうかしたのか?」
「ひえっ!? あ、い、いえ!!」
フリーズしていた時に話しかけられ、変な声が出てしまった。
「私も久しぶりだから、初心者は一人じゃないぞ。それに、別に難しいマナーがあるような場所でもない」
と言って、掛け湯の話や、湯舟に髪やタオルをつけないこと、
その間も得意げな秋風さんのお顔と、スレンダーな身体…それに下着が見えてドキドキが止まらない。うう…ごめん秋風さん…。
学校の、体育の時間の着替えとは比べ物にならない難易度だ。あっちは脱いで着るし、そもそも完全には脱がないけど、こっちは完全に脱ぐだけ。お風呂を上がる時はまた着るけど、その時だってぜ、全裸だし…。
けど、ずっとこうしているわけにもいかない。勇気を振り絞りオレも脱ぎ始めるが…こちらを見て優しく微笑む百々ちゃの顔が見えて、今オレはものすごく悪いことをしているんじゃないかと視線を逸らしてしまう。あっ、ふ、太ももが…え、えっちすぎる…。
「ここ、一つ一つのお風呂がすっごい大きいんですよ!」
「しかもあんまり混んでないし、これならゆっくりできそうだね」
「こういう所久しぶり」
「私もだ。というか、もしかすると学生以来かもしれない…」
「えっ、ほんと??」
みんなはもうほとんど脱ぎ終わって、ちょっとした雑談をしながらたぶんオレを待ってくれている。…オレもなんとか脱ぎ終わった。目を瞑っていても服は脱げるのだ。我ながら天才的な気付きだと思う。
…が、問題はここからだ。さすがに移動するのに目を瞑ったままというわけにはいかない。危ないし、何よりなんだこいつ…って思われるだろう。覚悟を決めて、目を開く。できる限り、自分の足元を見るようにして、みんなについて行った。
◇
「うぁあ〜……」
途中、
一度湯舟に入ってしまえばこちらのものだ。オレは再び目を閉じてお湯をぱちゃぱちゃしながら寛いでいる。
「あぁ~やっぱ大きいお風呂ですよねぇ~」
「出てはいけない声が出てるぞ…」
「やっぱりおじさんなんじゃ」
「もうこんなに気持ちいいならおじさんでいいですよ~。あ、私サウナ行ってきますねー」
そう言うと、まおー様は湯舟から出たようだった。サウナ…入ったことないけどクッソ暑い場所になんで好んで行くんだろう…割と拷問みたいなものじゃない…? などと考えていると、誰かが近くに寄ってきたのを感じた。
「あんまり楽しくない?」
声の主は百々ちゃ。そんなことを言うのはたぶん、オレがずっと目を閉じてたり、何ならそれどころじゃないことばかりでほとんど喋っていなかったからだろう。
「え、えっと…その…」
しどろもどろになりながらも、そこだけは誤解してほしくなくって、今ちゃんと楽しんでいること、それと、み、みんなの裸を見るのが恥ずかしいことを正直に伝えた。
「そう、だったんだ」
百々ちゃはゆっくりと優しく言葉を続ける。
「なら、ひかるのペースで大丈夫。でも、少しずつでいいから慣れてほしい」
「えっ、と…」
そ、それってどういう…? も、もしや、これってその…え、えっちな話なのでは…と妙な想像をしそうになったところで。
「うぅ…も、もう限界…ゆ、許してぇ…」
「あんたが悪い。反省した?」
マジでキツそうな仄ちゃんの声と、鋭い声色をしたゆいなちゃんの声が聞こえてきたのだった。
「もーサウナはそういう風に使うもんじゃないですからね!」
「わ、私じゃなくてこっちに言って…ちょ、ちょっと休んでくる…」
「きちんと水分を摂れよ」
「…私達もそろそろ上がろうか」
「あ、う、うん…」
◇
『――ってことがあったんだよね。だから今日はもう疲れたのでこのままみんなで
【ええ…】
【ってことの内容をもっとちゃんと説明しろ】
¥10,000
【その話でこの配信全部使え】
【ふーんエッチじゃん】
¥4,500
【それで感想は?】
『えっ!? …おっぱいがいっぱいだったなぁ、と…』
【は??】
【見る勇気もなかった癖に何いってんだこいつ】
【しょーもな】
¥500
【センスがなさすぎる】
【クソ寒いのはお前のせいだったんか】
¥5,000
【氷河期不可避】
『はいはい、これ以上詳細に話すとBANされちゃうかもだからこれでこの話は終了! 続きはメン限で!』
【メンバーシップないだろお前!】
¥1,900
【今すぐメンバーシップ作れ】
¥200
【メン限で一生その手の話をし続けろ】
【テキトーの化身みてぇな女】
【テキトーの権化みたいな男】
【だからどっちなのだよ】
◇
この配信は終了しました
【雑談】着る毛布と結婚したい【オンライブ/宵あかり】
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宵 あかり
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