44『自分の部屋の女子の制服も少し見慣れたような気がする』
夏休みが終わり、学校も始まった。九月になっても相変わらずクソ暑いが、それでもなんとなく、今年の夏は終わったのだなぁと思ってしまう今日この頃。
しかし…この夏休みは本当に忙しかった。ボイスのこともあって毎週一度はオンライブの本社へ行っていたし、それ関係でなくても
しかもマネージャーさんも
「──はい、では今日はこれで放課になります。明日からは授業も始まりますので、気を引き締めていってください。では号令!」
…と、怨嗟の声を心の中で吐き出していると担任教師のそんな言葉が聞こえてきた。今日は午前で帰れるし、ついでに言えば久しぶりに配信もない日だ。日直の気怠げな「気をつけ、礼」でその日は解散となった。
さて、今日も今日とて秒で帰ろう。前に帰ろうとした時に絡んできた男子連中もソシャゲに夢中になってるし、今のうちだ。荷物を持って立ち上がった、ちょうどその時だった。
「
聞こえてきたのは女の子の声。そしてオレの名前。反射的にひゃい、と我ながら情けない返事を返してしまった。
ちらりと声の主の顔を見る。確か、この人はよく女の子達の中心にいる人…名前は本間さん? だったと思う。…ド陽キャじゃん!?!? えっ、何の用? もしかしてこれからオレ虐められたりする…?
なんて考えながらも声には出せず、ついでに目も合わせられないのでせめて失礼にならないよう首の辺りへ視線を送る。驚かせちゃってごめんね、と言ってから彼女は話し始めた。
「今日の放課後カフェに行こうって話してたんだけど、そ、その…星宮さんもどうかなーって…」
「カフェ…」
はえーカフェ…。えっカフェ???
「そ、そう! カフェ! えっとね、落ち着いた雰囲気の所だし、いろんな本もあるみたいで、だから、きっと星宮さんも…えと…」
なぜか慌てて説明を付け加えてくれる本間さん。慌ててる相手を見ると少し余裕を取り戻せるよね。まぁそれでもオレの配信のコメントで見る【TS美少女Vtuber!?!?】くらいの取り乱し度を依然としてキープしているのだが。しかし本か。そういえば一応、読書が趣味だってことにしてたな。まさかわざわざそれを覚えて…?
少し視線をずらして見れば、こちら見守っている女の子達の姿が。すぐに見なければよかったと後悔した。なんだそのいけるか…!? みたいな雰囲気は!
「そ、の…」
みんなでカフェとか無理です死んじゃいます。助けて百々ちゃ、
オレの口篭った様子を見て、本間さんは「ご、ごめんね! 忙しいよね!」と言って去っていってしまった。結局相手の方の反応待ちみたいになってしまって申し訳なさで一杯だ。
…やっぱり配信で話すのと、こうやって学校で話すのって全然違うよなぁ…。
そんなことを思いながら、逃げるようにその場を後にしたオレだった。
◇
無事帰宅を果たしてお昼ご飯を食べた後は、とりあえず惰性で続けているソシャゲのログボを回収したら、その後はTwitterを見たり、まとめサイトを見たりしながらご〜ろごろ…なんか少し前までこれが日常だったのに今はちょっと懐かしく感じるな? 決めた、今日はもうずっとこの緩さで行こう。Twitterも
一度そう決めると心が軽くなるもので、より一層、このだらだら時間に身が入るような気がする。このまま怠惰を極めし者になるのも悪くないなぁと思いながら、ソファの上でスマホを片手にやわらかクッションくんを抱き締めていると…。
ブーブー!
と、会社から貸されているスマホが鳴り出した。通知は切っていたと思っていたのだがバイブレーションにしていただけだったらしい。さっき誓ったので出ない。出ないが…一応、通話をかけてきた人の名前だけは確認しておこう…たぶんマネージャーさんな気はするけど。えっと、表示されてる名前は…。
「………えっ??」
な、なんで!?
確かにオンライブ歌祭りの時に話したけど、あの後メッセージなんて挨拶みたいなのしか来ていなかった。少なくともいきなり通話をかけてくるような距離感では間違いなくないはずだ。ちなみに今配信してたりは…しないか。じゃあ企画とかって線もないじゃん! 余計に分からなくなったぞ!?
と、とにかく…! ここは見なかったことに…。
少しするとバイブ音も大人しくなり、スマホは再び静かになった。空かさず通知をオフにしようとスマホを開くが…次はメッセージの通知が。相手はやはり幽世先輩。無視したいが、内容も気になる。お、怒ってたりしないよね…? 恐る恐るメッセージを見てみる。
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au 4G 13:05 ➤98% ▄
≡ @ 幽世誘 ゜ L ■ ●
────────────20xx年9月1日────────────
幽世誘 今日 13:04
ごめん、よく考えたらこの時間は学校
かな?
それなら時間がある時に見て貰えるよう
にメッセージにしておくよ
久しぶり、宵あかりさん
歌祭りの時に話したコラボの件で連絡し
ているよ
八月は忙しかったようだから、今月はどう
かなと思ってね
獣王百々さんからは今月なら大丈夫だと
返事を貰ってる。宵あかりさんにも
是非確認してほしい
では良い一日を!
+ ■ @幽世誘へメッセー… ● ▖
──────────────────────────────
はえ〜コラボ…えっコラボ!?!?!
「えっコラボ!?!?」
つい声にも出てしまった。いや、そりゃ出る。歌祭りの時に話したなんて言ってるけど、オレはそんな話一度もした覚えないもん。幽世先輩とは他のライバーさんの歌について話をしただけだったはずだ。…でも百々ちゃが大丈夫って言ってるってことはこれやっぱそういう話をしたってことだよな…。
となるといつもの如く、今を楽しむために嫌な事は頭からポイッ、していたか、はたまた単にオレが話を聞いていなかったかなのだろう。これだからほんとに
先ほどまでの軽かった心はどこへやら。一瞬にして頭の中は遠からずやってくるであろう先輩達とのコラボのことでいっぱいになってしまった。
相手はこれまでとは違い、同期ではなく先輩だ。三人とも優しい人達であることは一度話して分かっているが、それはそれ、これはこれはこれである。
百々ちゃが一緒とはいえ、またお腹の痛みと戦うことになりそうだ。たぶんハイライトがなくなっているであろう瞳で、正◯丸の瓶を眺めながらそんなことを思うのだった。
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