番外編『宵さまーでいず3』

 …人、人、人。まさに見渡す限りの人混みだった。


「さすがに混んでますねー」

「規模が規模だからな、例年これくらい人が集まるそうだ」

「はぐれないようにしないとね」

「だね、迷子になったら大変だし!」

「せっかく来たのに嫌な思い出にはなってほしくない」


 みんなオレと同じことを考えていたらしく、そんな感想を口々に言い合っている。まぁとは言えこの年にもなって迷子にはそうそうならないだろう。いざって時はスマホもあるし。

 …と、会話にこそ混ざらない(というか混ざれない)がそんな風に考えていた時。両隣を歩いていた二人、百々ももちゃとほのかちゃんがこちらを見てこんなことを言ってきたのだった。


「「手繋ごうひかる(ちゃん)」」



 ふと「お祭りってロクに行ったことないんだよねー」と配信で話したのがきっかけだった。その時はコメント欄にいつもの二人が湧くこともなく、メッセージなんかも来ていなかったので安心していたのだが…。



au 4G          19:11          ➤99%▌

 < オンライブ三期生(6)                  ≡ 


 百々ちゃ 

 https://~

 @All このお祭り、来れる人いる?


 秋風紅葉

 8/31か

 18時頃なら大丈夫だ 


 世統まお

 是非ご一緒させてください!


 仄ちゃん

 私も行けるよー!


 柚月ゆいな

 私も


 百々ちゃ

 じゃあ決まり

 @宵あかり 8/31の18時半に迎えに行くね


                       えっ


+ ⊡ ◰ Aa          θ



 …と、言った具体にとんとん拍子に話が決まり、今日。どうやら話を知っていたらしいママに笑顔で見送られ…こうして三期生みんなでお祭りにやってきたというわけだった。


「花火まではまだ時間があるな。あか…いや、ひかる、何か食べたいものや気になる屋台はあるか?」

「ふえっ!? あっ、えっと…」


 考え事をしていた時にいきなり話を振られ、驚いて変な声が出てしまった。両隣から聞こえてくる「可愛い」という声を努めて聞かないようシャットダウンして、秋風あきかぜさんに答える。


「じゃ、じゃあ…タコ焼きとか…」


 じゃあ、なんて言っているが正直初めからバリバリ食べたいなーと思っていたやつだったりするのだが。あと焼きそばも。そのために多めにお小遣いを持ってきてるくらいだ。この手の屋台飯はなんかすごい憧れがあるんだよね。ショバ代と言わんばかりに高いのも許せてしまう雰囲気がある。


「いいですね、タコ焼き!」

「食べたいけど一個でいいかなー」

「同じく」

「なら三パックもあればよさそうか。どれ、買ってくる」


 オレが何か言う前にぴゅーっと買いに行ってしまう秋風さん。まぁお金は後で渡せばいいか。さらに焼きそばも食べたいということを百々ちゃに伝え、ちょうど近くにあった屋台で焼きそば(お祭り価格)を購入する。まおー様もまおー様で、小柄な体を活かして人の間をスイスイと掻い潜り、いつの間にやらケバブやイカ焼き、ビールなんかを調達してきている。秋風さんのタコ焼きも合流して、豪遊っ…! 状態である。オレはビール飲めないけど。

 歩きながら食べてもよかったのだが、この祭りに来ている人の数にしては奇跡的に空いているベンチを発見できたので座って食べることができた。


「あー祭りって感じしますねぇ…まさか屋台でまで年齢確認されるとは思わなかったですけど…」


 かなりの勢いでビールを減らしながら緩く微笑むまおー様の言葉が全てだった。お祭りほとんど来たことないけど今すっごいお祭りって感じするもん。


「ひかるちゃん、あーん!」

「次は私がやる」

「わ、私もやっていいか?」


 暑いけど、それもそれでいいなぁと思えてしまう。これが祭りの魔力というやつなのか。

 まさにお祭りそのものなフルコースを食べながら、そんなことを思った。



「そろそろ花火が始まるな」


 お祭りの主役達を食べ終わり、腹ごなしに屋台を見て回っていると、秋風さんが腕時計を確かめながら言った。この分だと歩きながら見るしかないかな? と周囲を見渡しながら言う仄ちゃん。確か長くは立ち止まらないでください、みたいなことを実行委員的な人達が言っていたのでそれしかなさそうだが…。


「うっぷ…こ、これ以上歩き回るのはちょっと…」

「言わんこっちゃない…ほら水飲んで、水」


 いつの間にやら、まおー様がなかなかに限界っぽくなっていた。ゆいなちゃんに介抱されているその姿はダメな酔っぱらいそのものである。見た目はロリなのに。ちゃんとまおー様って大人だったんだなぁとこんな姿を見て納得してしまった。


「私は…私は置いていってください…足手まといにはなりたくないですっ…!」

「そんな…! 置いていけないよっ!」

「任せてくれ。良い場所を調べてある」


 酔っぱらいなまおー様とノリが良い仄ちゃんの寸劇を無視して、秋風さんの案内の下にやって来たのは小さな神社だった。


「確かにここからなら綺麗に見えそう」

「そうだろう? 下調べはバッチリしてきたからな!」


 ドヤ顔で言う秋風さん。階段を登った先にあった都合上、まおー様はさらにグロッキー状態になってしまったけど、ここなら人もそんなにいないし(それでもそこそこはいるが)ゆったりと花火が見られそうだ。

 …と、そんな話をしているうちに、花火が打ち上がり始めたらしかった。


「わぁ…!」


 距離が近いからだろう、デカい。それに伴って迫力もヤバい。…花火ってこんな綺麗だったっけ。気がつけば、自然と声が出ていた。 


「来てよかった」

「うん、本当に」

「…この表情見せられたらそりゃね」

「そうだな…」


 何発も何発も打ち上がり、綺麗に花を咲かせる花火達をただ見送る。

 空が静まるまで、ずっと。



 花火も終わり、祭りも終わる。あんなに人混みが嫌だとか、暑いのが嫌だとか言っていたのに、気が付いてみればすごく楽しんでいる自分がいた。…プールの時もそうだったな。で、終わってみると次はなんというか、ああ終わっちゃうんだなぁと、そう思うのだ。


「どうしたの? 具合悪くなった?」


 ちょっとうつむき加減で歩いていたからだろう、仄ちゃんが気を遣ってそんなことを言ってくれた。


「あっ、その、だ、大丈夫…です。そういうのじゃなくて…なんか…その…」


 端切れが悪いオレへ、仄ちゃんは促すように優しく相槌を打ってくれる。


「これで終わりだと思うと…寂しい、感じがして…」


 ママと出掛けることはたくさんあったけれど、こんな大人数でいろいろなところに行くような経験はほとんどなかった。だから余計にそう思うのだろうか。

 オレが困らせちゃったかな、と思い顔を上げると、ゆいなちゃんに支えられている仄ちゃんの姿が見えた。ええ…?


「なっ、なら今日は私の家に…」

「はいはい、アンタの家には私が行くからちょっと黙ってて」

「じゃあ終わりじゃなくしちゃおう」

「いいですね、手持ちのやつならその辺でも買えると思いますし」


 百々ちゃ、そしてすっかり元気になったまおー様が言う。続けて、前を歩いていた秋風さんも会話に加わった。


「そうだな、あとは場所か。近場にあればいいが…」

「え、えっと…?」


 ?マークを浮かべまくるオレを他所に、秋風さんはスマホを触り始めてしまった。どうやら状況が理解できていないのはオレだけらしい。


「花火買って、第二ラウンドだよ!」

「あとはバケツか」

「少し歩くと百均があるはず」

「そこなら花火もありそうですね」


 ここに来ることを決めた時のように、とんとん拍子に話が決まっていく。

 いつもなら困惑する流れ。けれど、この時はそんな雰囲気がとても心地よく感じた。






「今日は楽しかった?」


 帰り道の車の中。今日のことを思い返していたオレへ百々ちゃがそう声を掛けてきた。突然決まって突然始まったことだけれど、「うん」と迷いなく返すことができた。

 オレが言葉を続ける前に、百々ちゃが安心させるように言う。


「また、何度だってみんなで出掛ければいい」


 これで終わりじゃないよ、と。もう一度うん、と返して、それと一緒にありがとう、と伝える。ああ、百々ちゃだけじゃなく、みんなにも伝えなくちゃ。



au 4G          21:01          ➤52%▖

 < オンライブ三期生(6)                  ≡ 


 百々ちゃ 

 @All 気を付けて帰ってね


 柚月ゆいな

 @世統まお 特にこの人 


 秋風紅葉

 特に階段とか段差には気を付けてな


 世統まお

 もう大丈夫ですって!


 仄ちゃん

 私もあかりちゃんと一緒に帰りたかった…


 柚月ゆいな

 方向真逆だししょうがないでしょ


                       今日はありがとうございました!


+ ⊡ ◰ Aa          θ



 また次の夏も、きっとたくさん楽しいことがある。花火の終わりに感じていた寂しさは、もうどこにもなかった。

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