23 『悪い予感ほど的中率は高い』

「──こんな形になってしまって本当にすまない」


「あ、えと…いえ…」


「だが、どんな形であれ教えるからには全力で取り組ませてもらうから安心してくれ」


 そう言って、時折片手に持った手帳を見ながらタブレット端末を操作していく秋風あきかぜさん。

 その横顔は真剣そのもので、さっきの言葉通り本気で勉強を教えに来てくれたのだということが見て取れた。


 …さて…それでは久々のどうしてこうなったんだタイムの幕開けである。

 事の発端は、オレに勉強法を教えろと言った、あの配信の後にまで遡る。


 はい、回想スタート。



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秋風紅葉 20xx/07/15

こんな時間にすまない。   


秋風紅葉 20xx/07/15

さっきの配信を見た。    


秋風紅葉 20xx/07/15

手伝わせてもらえないか?   


秋風紅葉 20xx/07/15

勉強なら、少しは役に立てると思う。    




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│秋風紅葉へメッセージを送信

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「……えっと…?」


 その日の配信を終え、永遠とわさんの歌と、ミラ様のお褒めの言葉でモリモリとメンタルを回復させていたオレに飛び込んできたのは、同期の一人である秋風紅葉もみじさんからのメッセージだった。

 内容としては見たまま…どうやらオレのさっきの配信を見て、勉強を教えてくれようとしているらしい。…これ、コラボとかじゃなくて純粋に勉強を教えてくれようとしているのだろうか?


 嬉しいと言えば嬉しい…気もする。わりとオレ秋風さんには親近感あるし。でもなぁ…。

 ちょっとマシになってきた気もするけど、オレは依然としてコミュ障陰キャだからなぁ…。二人っきりで通話しながら勉強教わるなんて到底無理。難易度が高すぎる。秋風さんには大変申し訳ないが、パスさせてもらおう。さて、なんとか角が立たなそうな返信を考えなくては。てか正直こうやって返信の内容を考えるのすら、一苦労だというのに、さすがにこれは――


 と、そんなことを考えていたその時、通話の着信音が鳴り響いたのだった。


 だ、誰だ? マネージャーさん? いや、別に最近は問題になりそうなことも(たぶん)してないし…となると秋風さん本人か…?


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     獣王百々

     着信中…


     ×  / 

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 しかし、そんなオレの予想に反して、表示されていたのは獣王ししおうさんの名前だった。

 来週のコラボの話かな、獣王さんはわりとよくかけてくるのでこちらもいつの間にか慣れてしまっていた。それほど気負うことなく――それでもやはり、少しだけ緊張しつつ通話に出る。


「は、はい…えと、わたし、です」

『こんばんは、あかり』

「は、はい…その、どうかされましたか…?」


 オレがそう聞くと、獣王さんにしては珍しく少し歯切れの悪そうな様子を滲ませながら続けた。


『こうよー…紅葉からのメッセージ、見てくれた?』

「え゛っ。ん、んん! は、はい…」


 え、なんで獣王さんからその話が…? いや、名前弄りしてたりかなり仲良さげな雰囲気だったけど! もしやほのかちゃんとゆいなちゃんみたくリアルで友達同士なのか…?

 それ考えるとかなりてぇてぇな…などどいつものごとく現実逃避気味に考えていたオレへ、獣王さんはさらに衝撃値の高い一撃を加えてきたのだった。


『できたら、でいいんだけど…その話、受けてあげてほしい』


 曰く、秋風さんはかなりこれを送るのに悩みまくっていたらしい。そして、勇気を出して送ったら送ったで、次は相手に迷惑だったんじゃないかと悩んでしまい、知り合いである獣王さんに相談した、と。


 なるほど、これは…。


「よ、よく分かります…! そういう気持ち…!」


 だってこれ、ほとんどオレと同じだもんな。つまりは秋風さんもこっち側・・・の人間だったというわけだ。

 元々あった親近感もあって、オレはちょっとだけだが秋風さんとなら話せるような気がし出していた。それにどうせ配信をするわけでもないのだ。お世話になっている獣王さんの頼みだしと、オレは秋風さんから勉強を教わってみることにした。


 したの、だが…。


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神無月 20xx/07/16

聞いたよ、秋風君と勉強をするんだって?   


神無月 20xx/07/16

せっかくだしコラボということにしよう!  


神無月 20xx/07/16

大丈夫、当日は送り迎え付きさ。


神無月 20xx/07/16

秋風君にも話は通しておいたからね!    




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│神無月へメッセージを送信

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「えっえっ…ええ…」



 はい回想終了。


 これまでも急なことはよくあったが、それでもここまでのスピード感は初めてじゃないだろうか??

 だって言い出して二日しか…いや、秋風さんがメッセージを送ってきた時間を考えればほぼ一日と数時間? くらいしか経ってないよ。なのにオンライブ本社に場所が用意されててオフコラボってさぁ…。


 ふと頭には以前見た、あるコメントが浮かんでいた。


(これがオンライブだ、か…)


 この運営あって、このライバー達あり。個性的なのはどうやらVtuberだけではないらしい。これを個性的という一言で片付けるのはかなり問題がありそうだけども。


(…しかしまぁ…)


 気付かれないよう、そっと秋風さんの方へ目を向ける。仄ちゃんやゆいなちゃんと同じく大学生くらいに見える人だ。そして例に漏れず顔面偏差値はとてもお高い。真面目そうな美人さんである。

 …こんな「できる人」って感じの人がオレにちょっとメッセージ送るのに小一時間も悩んだりするんだろうか? 初めの挨拶もまるで淀みのない完璧な挨拶(オレ基準)だったし…。


 ――と、何か物を取ろうとしたのだろう、すっと身体を前へ乗り出した秋風さんの、片手に持っていた手帳のようなものが目に入った。断片的にしか見えなかったけど、これは…。


(か、カンペ…!!?)


 だってさっきオレに言った挨拶の内容がまんま書いてあったし。なんならその下にチラッと見えたやつもさっき軽く喋った内容だったと思う。


(……大丈夫かなぁ…)


 オレが言えたことではまずないだろうが、急に少しばかり…いや正直かなり先行きが不安になってきたのだった。

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