浮気の残り香『解決編』〜消えたその香り〜その4


 久しぶりのお婆ちゃん(母方の)の家に行く。大体1年振りに実家に戻る。


 元カノは学校辞めてからどうなったのだろうか……。まぁそんな事はもうどうでもいいや、だって所詮は”他人"…だからな。


 ただ、母さんは浮気をして家族を捨てるようなことをしたというのに、どうしてか憎く思っても離れたいとは思わない。


 一体この気持ちはなんだろう。


 そんな事を考えている内にいつの間にか電車が実家の最寄り駅に止まった。


「久しぶりの実家だなゆうき!」


「そうだな…」


 父さんはどんな顔して爺ちゃんと婆ちゃんに母の浮気を伝えるのだろう。


 そしてそれを聞いた爺ちゃんと婆ちゃんはどんな表情をするのだろう…。


 悲しい?驚き?怒り?呆れ?


 どれも可能性はある。


 暴れ出すかも知れない、母の味方になって逆ギレしてくるかもしれない。


 全く不明で少し怖い。


「それにしてもやっぱり畑がいっぱいだな」


 父さんは周りの景色を見回しながら言う。


 母の実家を一言で表すと、それは田舎だ。

それも『ド』が付くほどの田舎だ。


 歩けば畑、耳を澄ますと水や虫の自然の音、クンクンと鼻で嗅げば肥料うんこの臭い匂い。


 実家近くにある公園には錆びた鉄棒とブランコがある。


 ブランコのチェーンは錆びていて成人男性であれば乗ると間違いなくすぐ壊れるだろう。


「そうだな…畑がゴミのようだ」


 そのまましばらく整備されたかどうかあまり分からない道を進み、やっと実家に着いた。


 季節が秋ということもあり別に暑くは無かった。



      〜実家にて〜


「ピンポーン」

(インターフォンの音)


 音を聞いてドアの奥からドンドンドンと木材の上を走る音が段々と大きく聞こえてきた。


「は~い!」

「ってあら?!ゆうきちゃん久しぶり〜!」


 婆ちゃんが出てきた。相変わらず元気だった。父さんとは違い一年でそんなに老ける事は無かった。


 それ程父さんは仕事や俺の事を色々と頑張ってきたんだろう。今日の朝飯だってそうだろうな。


「ありがとう!父さん!」


 俺は思わず感謝したくなっていた。


「ん?どうしたんだ急に?なんか恥ずかしいぞ!」


 父さんは少し顔を赤らめながらプイッと目を逸らす。


※これは親子のBLではありません


「久しぶり婆ちゃん!」

「突然来ちゃって驚いた?!」


「うんうん!もう驚き!」

「今年の夏休みは帰ってこなくて爺さんはすっごく寂しかったんよ!」


 父さんは俺の引きこもりの件は家族には言っていない感じだった。言ってしまったらお節介焼きの老夫婦二人に心配をかけさせるからだろう。


 色んな所で父さんの優しさを垣間見えた。

母さんはこんな父さんが居るのにどうして浮気なんてしたのだろうか…。


「ごめんなぁ婆ちゃん!今年の夏休みは夏期講習があったりと色々とバタバタして婆ちゃんに会いに行くタイミングが無かったの!」


 (実際は引きこもってただけやけど)


「そうか、それは仕方がなかったねぇ〜!」

「まぁ夏休みだけじゃなく、今日みたいにいつでもおいでー!」


「うん!今度からそうするよ婆ちゃん!」


「んじゃ上がって上がって!これから昼ご飯作るところや!久しぶりの婆ちゃんの手料理ご馳走するわ!」


 そのまま俺と父さんはリビングにある3つの座布団の上に適当に座る。


 周りを見回すと一年前に訪れたときとあまり変わらない。


 テレビや洗濯機、冷蔵庫の三種の神器に加え電気ポットや電子レンジなどが結構最近の物に一新されている。


 元はテレビも初代カラーテレビで洗濯機や冷蔵庫もそのくらいの時代に買った。


 確かポケットしか需要がないと言われている可哀想な猫型ロボットアニメが初めてテレビで放送され時くらいに買ったと昔婆ちゃんから聞いている。


 そう考えると今の時代は便利になったもんだな。


 そんな技術の進化を考えながら俺と父さんはテレビを付け、適当に『昼なんです』という番組を観ていた。


 そうぼーっといつの間にか机に運ばれた冷たい抹茶を飲みながらダラダラっとテレビを眺めていると2階建ての実家の2階からトントンっと降りてくる音がした。


「婆さん飯まだか〜?!」


「まだよ!爺さんはゆうきちゃんとでも遊んどき!」 


 婆ちゃんの声に爺ちゃんは座布団の上に座っている俺と目が会う。


 瞬間。とんでもない速さで爺ちゃんは抱き着いてきた。


「ちょじいちゃん!(緑茶が)こぼれるこぼれる!」


「久しぶりに孫に会えたんじゃ!そんな緑茶こぼしたくらいでこの腕は離さんよ!」


 爺ちゃんは孫の俺が大好きだ。どうしてそんなに好かれているかは分からないけど。まぁ好かれて嫌な気分にはならないから俺はあまり気にしてない。


「もう、また爺さんそんなにゆうきに抱き着いて!ゆうきももう高校生よ!そろそろやめなさいね!」


「婆さんや、やめたくてもやめられないんじゃよ!」


(俺はタバコかなんかか?ニコチンでも含まれてるんだろうか…)


「まぁ一旦抱きつくのはやめて昼ご飯食べるよ!」


 婆ちゃんは色々と料理を机に運ぶ。そのまま爺ちゃんは婆ちゃんの料理を運ぶのを手伝う。


料理の種類は豊富にあって、

ひじき煮・きんぴらゴボウ・昆布や玉葱、豆腐の入った少し濃い色をした味噌汁・そしてなんだか懐かしいと感じてしまう肉じゃが。


 そしてそれらの料理を更に美味しくしてしまう魔法の食べ物、が机に並べられていた。


どれも美味そうで一気に食欲が湧いた。

季節が食欲の秋というのもあり、より一層食欲が湧いた。


(よし、食べるか……、あ……)


 俺は机に箸がないことに気付きキッチンに行く。爺ちゃんと婆ちゃんは父さんとなんだか楽しそうに会話をしていて俺には気づいていなかった。


 まぁ別に浮気の話を打ち明けているのではなく「母さんは元気か?」とかを爺ちゃんと婆ちゃんに聞かれて父さんがそれに答える近況報告みたいなことをしていた。


 まぁ今浮気について言ってしまうと飯ところの話ではないし、空気が重くなって飯の味がしなくなるから言わない方がいい。


(箸ってどこだっけ?)


俺は箸を探すために引き出しを一個一個開けていった。


(あっ、あった!………ってこれ折れてるし!なんか袋付いてるし、また探すか…。次は下の段っと…あった!)


 俺は四人分の箸を持って座布団に座る。爺ちゃんだけ座布団には座らず畳の上に座った。


 しばらくご飯を食べながら幸せな一時を過ごす。


 どれも婆ちゃんの愛のこもった料理で、本当に美味しかった。こんな優しい爺ちゃんと婆ちゃん。


どうして母さんは浮気なんてしたのだろう。


ただ、その理由はこの食事後にすぐ分かることになるとは俺は思わなかった……。


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