影の薄すぎる俺を見つけるのはやめてくれ

アジのフライ

プロローグ

「……もぉ。たっくん。だめだよ。見られちゃうって」

「ばーか。こんなとこ、誰もいねえよ」


 ――いるぞ。

 俺は一人心の中で毒づく。

 昼休憩。校舎裏の体育倉庫のそば。


 確かに昼休憩にここに来るやつはほぼ居ない。俺を除いては、だけれど。


 一体なにを見せられているんだ。

 真夏の真昼間からいちゃつく二人に向けてわざとらしく何度か咳払いをしてみるが、全く効果無し。


 別に俺はこそこそと隠れているわけではない。堂々とひとり昼ごはんを食べている。

 そして目の前には盛り上がるカップル。見る人が見れば、相当シュールな光景か新手のいじめに見えることだろう。


 そう。これが平常運転なのだ。

 これが俺、影山かげやまそうの日常だ。

 

 今日に限ったことではない。

 俺の存在感が、影が薄すぎるあまり。


 聞きたくもない先生たちの仕事や生徒への愚痴を聞いてしまったり。

 同じグループで仲良さそうに笑い合っている人たち同士の悪口を聞いてしまったり。

 そして今、まさにこのようにカップルのいちゃつく様子を見せられたりと。


 まったく困ったものである。

 果ては探偵か、それとも怪盗か。なんてな。


 俺は左手に持っていたぬるい野菜ジュースを飲み干して立ち上がると、いちゃつくカップルを横目に場所を変えることにする。


 彼らのいちゃつきは止まらない。

 そして、こちらへと視線が向けられることも、またない。


 ……今日も今日とて。

 俺の影は、薄すぎる。

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