第281話 美紅との別れもここまでだ


 遠くで屋敷が崩れる音がした。


 美紅みくとの別れもここまでだ。


 僕は美紅を横たえると、身なりを整えてやる。両手を胸の上で組ませて、ツインテールも綺麗に整える。


 それからポケットに手を入れて、赤と金の美しいつのを取り出す。


 ——ねえ、美紅。この角にはね……。


 この角にはね、僕らの思い出が詰まっているんだよ。怒ったり笑ったり、空を飛んだり時を越えたり、美味しいもの食べたり——。


 そんなことを話しかけながら、僕は美紅の角を彼女の角のあった場所へ近づけた。


 できるだけ元の姿に戻してやろうと思ったのだ。


 ところが——。


 僕の持っていた美紅の角が、美紅の傷跡に吸い付いたのだ。引き寄せられるようにくっつくと、ぱあっと黄金色の光が放たれた。


「え!?」


 僕は慌てて美紅の顔を覗き込んだ。


 光は消え、心なしか美紅の顔色が良くなっている。


「まさか」


 美紅の手をとる。


 ほんのりと温かい。それに、脈を感じた。


「美紅!」


 ——お願い、もしも奇跡があるのなら……!


 彼女の手を握りしめると、長いまつ毛が影を落とすまぶたがゆっくりと開きはじめる。黄金色の瞳が、僕をとらえて瞬きを繰り返す。


「美紅、わかる? 僕だよ——」


「一志」


 桜色の唇が僕の名を呼ぶ。


「美紅!」


 僕は喜びのあまり美紅に抱きついた。





 つづく

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