第276話 勝負



「生意気な、めっするがよい」


『鬼丸』のつかに手をかけて構えたままの僕に向かって、雪牙丸はおもちゃに飽きた子どものように言い放った。


 月河さんに攻撃した光弾と同じものが、彼の胸の前に再び作られていく。


 胸の中央の黒いつのは太歳さんのものだ。


 そしてその周りを彩る青と緑のつのは北辰さんと南冥さんのもの。


 ——みんな、僕が解放するよ。


 僕の心のうちの言葉に反応するように、雪牙丸の胸に埋められた角が淡く光った。


 ——一志。


 ——せめてみんなのつのを、雪牙丸から……。


 自由に。


 僕はそう願って、次第に大きくなる光弾を見つめた。




「散れ! 鬼の味方をする裏切り者よ!」


 雪牙丸が放った、眩しいほどの光弾は美しくすらあった。


 熱を帯びて迫ってくるそれは、僕の眼前に見えた。


 いつにも増して滑らかに抜刀できる。


 滑るように鞘走った刀は、そのまま下から斜めに光弾を切り裂いた。


 真っ二つに斬ったそれは半球の形を残したまま左右に分かれて飛んで行く。僕の身体を掠めて後方へ——。


 開かれた視界には驚く雪牙丸の顔があった。それから僕を呼ぶように彼の身体に埋め込まれた鬼のつのが煌めいた。


 ——斬れ、一志。


 そう言われた気がした。


 僕は斬り上げた刃を返して前へ踏み込む。


——」


 雪牙丸が何か言った。


 その言葉が終わるより早く、僕は刀を振り下ろす。


 袈裟斬りに奴の左肩から右の腰へ——。


 一閃。


 青い三日月を描くように、誰の模倣でも無い僕だけの一振り。


 渾身の一太刀は『鬼丸』の力が発動したのか、それとも僕の気迫が乗ったのか、雪牙丸を後方へ弾き飛ばした——。






 つづく

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