第275話 僕の覚悟


一志かずし!!」


 月河さんの叫びと共に、僕は襟首を掴まれた。


 喉が『おえっ』となったが、それよりも身体を振り回された事に驚いた。


 僕を引っ掴んだのは月河さんだった。


「月河さ——」


 僕の言葉は衝撃波とともに消し飛ぶ。ちぎれた言葉は轟音と渦巻く風に散り散りになった。


 それでも僕は地面に投げ出されただけで済んだ。慌てて起き上がると、月河さんの方を振り向く——。


「!!」


 そこには、半身を雷で焼かれ、半身をかまいたちに切り裂かれた月河さんが倒れていた。


 彼の周りの地面も削られ、焼かれ、戦の匂いが鼻を刺す。同族の力で傷つけ合わないようにと立ち塞がった僕の行為は、月河さんの優しさの前に霧散したのだ。


「月河さんッ!」


「ぐ……」


 うめき声が聞こえた。


 まだ生きている!


 でも細かな傷口から例の金色の粒子が溢れ始めた。


「月河さん、死なないで!」


「……一志……」


 長い白髪は血と煤とに汚れて、あの精悍な体躯はボロボロだ。


「ふふふふふふ……! さて残りは一人じゃの? の秘密をしゃべってもらうぞ」


 雪牙丸の勝ち誇った声が降って来る。


 僕はキッとなって彼を振り仰いだ。


「雪牙丸……!」


「気安く呼ぶな、下衆げすが。それともその刀で我を斬るか?」


 雪牙丸の挑発に、僕は無言で居合の構えをとった。


 斬る。


 たとえ彼に今、かなわなくても、この後現れるが倒すんだ。


 僕の身体の震えが止まり、世界が静まる。


 それを見た雪牙丸の片眉が面白そうだとばかりに跳ね上がる。


「ほう、やる気になったか。だが鬼の味方の其方そなたが武器を使うとは笑止千万」


「何がおかしい?」


「鬼めらは武器を使わぬ。己の能力一つで戦うのよ。それがどうだ。お前は我ら人と同じく武器で戦うか?」


「——それが僕の力なら」


 僕は僕の能力で戦うまでだ。


 今できるのは今までつちかってきた居合斬りしかない。


 僕は『鬼丸』を左手に携え、つかに手をかけた。


 深い呼吸をひとつだけすると、そのまま雪牙丸を見る。


 僕の口から僕のものじゃないくらい落ち着いた声が出た。


「来い」





 つづく

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