第274話 誰が為の力なのか?


「くそっ、わしらをいたぶって楽しむ気か?」


 ぎりっと歯軋はぎしりして月河さんがうめく。悔しがる僕らめがけて、雪牙丸は両腕を振るった。


「そら、其方そなたらの仲間の力じゃ!」


 連撃——。


 雷と風の刃が次々に飛んで来る。


「くっ!」


 月河さんも僕もかろうじてそれを避ける。僕が奇跡的に攻撃を避けられたのは、僕に向かって来る攻撃の数が少ないからだ。


 雪牙丸は僕を軽んじて手数を減らしていたのだ。


 その代わり月河さんが多くの攻撃をさばく形になる。光の針を無数に放って襲い来る雷撃と風の刃をしのぐが、防戦一方になる。


「ははははははははは! 良い眺めじゃ!」


「おのれ!」


 月河さんの手が光った。


 針というよりは槍のようなサイズの『光針こうしん』を作ると、身体を捻ってそれを雪牙丸めがけて投げつけた。


 光の槍——『光槍こうそう』は雷撃も風の刃も弾き飛ばして雪牙丸に迫った。


 彼の胸を貫くかと思ったその時、雪牙丸の胸に埋め込まれたひときわ大きなつの——太歳さんのつのが怪しく輝いた。


「『剛力』——?」


 月河さんの口から驚きと絶望の混じった呟きが落ちる。


 そう、雪牙丸は『剛力』で強化した腕で、『光槍』をあっさりわしづかみにしたのだ。ついでに軽く握りしめて、槍を粉々にした。


 砕けた光の槍は風に舞う花びらのようにあたりに散る。


 その光に包まれながら雪牙丸は胸の前に両手を近づけた。右手と左手のあいだに青と緑の光が集まってグルグルと回転し、光の球が作られる。


 雷と風の力を込めた光弾だ。


 光弾の色が淡い青と緑の混じった色から、眩しい白い光となり、その光は強くなっていく。


ね」


 雪牙丸の冷たい一言と共に、それは放たれた。




 どうしてだろう?


 雪牙丸を倒したいと願った鬼達のつのが奪われて、彼の力となり——今また、仲間の鬼を襲おうとしている。


 雪牙丸のためにある力じゃないのに。


 仲間の命を奪うための力じゃないのに。




 僕は、いつの間にか、光弾と月河さんの間に立ち塞がっていた。





 つづく

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