第273話 決意の庭で
僕らから母親が解放されたと見ると、雪牙丸も
「ひっ……!」
「花木!」
ゴロゴロと転がる侍女を追いかけて美羽のお母さんが僕らから離れた。
「ふん、母上に手をかけようとは図々しい奴め。表へ出ろ」
雪牙丸は余裕綽々で庭に出た。
僕らも距離をとりながら同じく縁側から降りる。
「おやめ! 雪牙丸!」
美羽のお母さんが雪牙丸を止めようとするが、その声は届かない。雪牙丸は僕と月河さんを八つ裂きにする気でいっぱいなのだ。
月河さんが無言で光の針を作り出した。今度は細いが数を多くしている。
「
その間に逃げろというのだろう。だけど僕は逃げなかった。
「月河さん、僕も戦うよ」
「馬鹿なことを言うな。お主は鬼姫の
「むっ、婿!?」
「傷つけるわけにはいかんわい」
「違うから!」
「そうか?」
「そうだよ! それに……ここで月河さんを置いて逃げたら、それこそ美紅に叱られる」
ははは、と月河さんは笑った。
「腹は決まったのう、一志」
「うん、月河さん!」
僕らは庭の端と端に立って向かい合う雪牙丸を見た。
居合の道場よりもやや広い庭。
月河さんや雪牙丸はその端から端まで一飛びだろうけど、僕には無理だ。せいぜい一太刀分の踏み込みくらい。
「別れの挨拶は済んだか?」
雪牙丸は地面からふわりと浮いた。
圧倒的な余裕。
笑みを浮かべて僕らを見下ろすその瞳は、もはや人のものではない。
ゆっくりと右腕を前に出す。
北辰さんの能力を奪って身につけた雷の力があふれて、右腕の周りに小さな雷を生み出した。
くるくると回るそれは次第に勢いを増してバチバチと音を立てる。
「来るぞ!」
月河さんが叫ぶと同時に、雪牙丸の腕から雷が放たれる。
「針を投げて!」
僕がそう言うと月河さんは光の針を投げた。
轟音と共に雷撃と光の針がぶつかり、相殺される。
白い煙が立ち込めたが、雪牙丸の左腕から生まれた風がすぐにそれを薙ぎ払う。
白煙の中から顔を見せた雪牙丸はニヤリと笑った。
「なかなか楽しめそうだ」
つづく
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