第262話 そんなノーダメージな顔でやって来るか?

 僕が南冥なんめいさんを看取みとっている時、月河げつがさんもまた北辰ほくしんさんの手を取っていた。


「……すまぬ……」


「……気にするでないぞ……月河……奴を、あと一息……まで、追い詰めた……ぞ……」


「北辰! 南冥!」


「……行け……月河……!」


 最後の力を振り絞って、北辰さんも月河さんを鼓舞する。その言葉を最後に、微笑んだまま双子の鬼は力尽きた。


「ぐうぅ……北辰!」


 残された月河さんの慟哭が響く。


 僕は月河さんに寄り添って、彼の震える背中に手を置いた。


 どう慰めても彼の悔恨は消えないだろう。


 だけどまだやるべきことがある。


 きっとそれをやり遂げることで、月河さんの気持ちは救われるんじゃないだろうか。


「月河さん、行こう。まだ雪牙丸は生きている」


「……うむ……」


 月河さんは北辰さんと南冥さんの残された手を重ねた。双子の鬼は生きていた時よりもずっと小さく見えた。


「……行くぞ、一志かずし


「うん」


 月河さんには倒された三人を悼みたい気持ちがあるだろう。それでも立ち上がって進む姿に、僕もまた同じ気持ちになる。


 この島に到着した時に抱いた、美紅みくに会えるかもという希望はもう無い。


 だけど雪牙丸への怒りが今僕の中にある。


「雪牙丸は弱っています。今なら——」


「今なら、なんだというのだ?」


 嘲笑うようなその声にギョッとして振り返る。月河さんも顔色を変えて振り返った。


 そこには、先ほどのダメージを感じさせないほど余裕の笑みを浮かべた雪牙丸が立っていた。





 つづく

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