第258話 雪牙丸の奥の手

「離せっ!」


 雪牙丸が太歳たいさいさんの『鬼万力』をほどこうとするが、命をかけたその技はガッチリと彼を捕まえて離さない。それどころかギリギリと締め上げて行く。


「離すものか! くっ……皆の者、今じゃ!」


 太歳さんも苦しそうだ。


 しかしそれでも他の皆に攻撃を促す。それに応えようと、皆が動き出した瞬間、何かが太歳さんの胸を貫いた——。




「なっ、何っ?」


「なんだ?」


 皆が口々に驚きを洩らすなか、大きな身体に隠れた雪牙丸がゆらりと浮かんだ。胸を貫かれた太歳さんがその手を離したのだ。


 スローモーションのように太歳さんが仰向けに倒れる。その向こうに雪牙丸が真っ赤な舌を覗かせて笑っていた。


 その舌は彼の身長ほども伸びて、再びしゅるんと縮んで彼の口に収まった。


「舌……?」


「くそっ! 我らの仲間に『蜥蜴舌鞭トカゲぜつべん』を使う者がいた。そいつのつのを奪ったな!?」


 月河げつがさんの言葉で僕は理解した。


 雪牙丸は様々な鬼のつのを手に入れてその能力を使うのだ。雪牙丸は舌を武器とする鬼の力を手に入れて、その舌で太歳さんの胸を貫いたのだった。


 太歳さんがどう、と大きな音を立てて倒れた。目の焦点が合っていない。


 それに——。


 胸に開いた穴から、金色の光の粒子が漏れている。


 ——壊されたんだ、反魂玉が!


 僕は慌てて太歳さんに駆け寄った。


 その僕めがけて、雪牙丸の舌が襲いかかる。それを南冥さんがカマイタチを放って防ぐ。風の刃を避けて、雪牙丸の舌がひゅるひゅると動くのが見えた。


 しかし僕は太歳さんのそばに膝をついて彼の胸に開いた穴を防ごうと、美紅のつのをポケットから出そうとした。その手を、太歳さんの手が抑えた。


「太歳さん?」


「いいのだ……一志かずし……」


 そう呟く彼の手は元の大きさに戻っていた。しおしおと小さくなって行く身体に驚きながら、僕は「でも!」と叫んだ。


 太歳さんは少しだけ微笑んで、僕の手を掴んでいる。そしてそのまま話し続けた。






 つづく

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