第257話 太歳さんの技

 三人がかりで雪牙丸に襲いかかる。


 北辰ほくしんさんは雷撃を右から、南冥なんめいさんは風の刃を左側から、そして太歳たいさいさんは自慢の拳を振り上げて雪牙丸に迫った。雪牙丸はニヤニヤと余裕の笑みを浮かべたまま、右に左にと体を揺らして軽やかに攻撃を避ける。


「くそっ! 二人とも離れろ!」


 北辰さんがその腕に蒼い稲妻を纏わせて構える。南冥さんと太歳さんがぱっと雪牙丸から離れた瞬間にその雷は放たれた。


 雷は龍の形をとって、ジグザグにうねりながら雪牙丸にぶち当たった。


「ぬうっ!」


 まともに雷を喰らった雪牙丸は苦悶の呻きを洩らすと両腕でガードをつくる。間髪入れずに南冥さんの風の刃が無数のカマイタチになって四方から雪牙丸の身体を切り裂く——。


 かと思えたが、すでにそこには雪牙丸の姿は無く、カマイタチはそのまま風となって飛んで行く。


「どこだ!?」


 急いで辺りを見渡せば、雪牙丸は空中で大きく宙返りして離れた屋根の上に華麗に着地した所だった。長い袖をひるがえしながらさも感心したように鬼達の様子を分析する。


「ほう。死ぬ前よりも力が増しておる。如何いかなる作用か——」


「うるさい!」


 太歳さんの身体が怒りでムクムクと膨れ上がる。


「太歳の『剛力ごうりき』だ。伏せろ!」


 ゴオォと空間が唸り声を上げ、太歳さんに向かって気が集まってくる。僕は月河さんの真似をして地面に伏せた。


 それと同時に太歳さんのぶっとい腕が雪牙丸めがけて拳を打ち出した。


 雪牙丸も負けてはいない。


 同じように右腕をほの青く光らせると、太歳さんの拳めがけて、自らの拳を繰り出した。


 大きな拳vs華奢な拳。


 しかし結果は——。


 吹き荒ぶ風の中、僕の目に映ったのは細い腕が太歳さんの拳を突き破った姿だった。


「ぐわあっ!!」


「ははははははははははははははは!!」


 大蔵さんの悲鳴と雪牙丸の哄笑が降ってくる。


「はははははは——は?」


 笑い声が途切れた。太歳さんが反対の手で細い雪牙丸の身体をわしづかみにしたのだ。両腕ごと締め付けられて、雪牙丸は身動きできず驚いている。


「『鬼万力おにまんりき』!!」


 太歳さんがその技に全ての力を注ぎ込んだ。





 つづく

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