第255話 皆を繋いだ縁のおかげ



 世の中に、不思議な力があふれていることを僕は知っている。


 僕をここまで連れて来た『鬼丸』や、鬼のみんなと出会ったこと、死んで甦った人たちやそれを叶えた反魂玉——。


 僕が持つ最後の反魂玉は首がちぎれた太歳たいさいさんの口の中でひときわ大きく輝くと、彼の命を奪った傷を修復し始めた。


 引きちぎられた骨や筋肉、血管がウネウネと動いて胴体と繋がって行く。


「ふむ、死にかけ以外も生き返らせるか」


 月河げつがさんは至って落ち着いた様子で感想を述べた。気持ち悪くないのかな?


「すごい力を持った道具ですね」


「……いや、これはきっと鬼姫の鬼力きりきによるものなのではないか? あるいは其方そなたの……」


「僕の……?」


「其方の他人を助けたいという思いがこの奇跡を呼んでいるのやも知れぬ」


 そうだろうか。


 それならきっと美紅の仲間を思う気持ちも混じり合って叶った奇跡だと思う。


 ——そして太歳さんの首がつながり、彼はパチリと目開けた。


 僕が知る鬼たちの中で誰よりもイカつい顔の彼はギョロリとした大きな目で僕を睨んだ。


 しかし僕のそばに月河さんがいるのに気がつくと僕への威嚇をやめる。


 ——目覚めてすぐに人を威嚇するくらい鬼たちは人間を憎んでいるのだろう。


 月河さんに手を引かれて起き上がった太歳さんは、鬼一番の巨軀きょくを誇らしげに僕の前に晒した。


 手短に僕が時を超えてやって来た味方で、美紅につのを託された者だと伝えられると、太歳さんは僕を見下ろして鼻から息を吐いた。


「ふむ、月河がそういうのなら信じよう。しかし鬼姫が人に心を開くとはなあ」


 それは僕だけでできたことじゃ無い。魂の同居した美羽みうの力があってこそ、彼女は僕にも心を寄せてくれたのだ。


 ——ドォン!


 大きな音にパッとして振り向くと、空から落ちて来た誰かが屋敷の屋根を壊しながら着地したところだった。


「おお、双子の!」


 太歳さんが声かけたのは北辰ほくしんさんだ。


「おお! 太歳殿! 無事に首がつながって何よりだな」


 北辰さんは屋根にぶつかった衝撃を物ともせずヒョイと飛び起きて仲間の復活を喜んだ。


「ぬぅっ!」


 衝撃を堪える呻き声が聞こえて、今度は南冥なんめいさんが空中をくるくると回転しながら飛んできた。


 スタッと着地すると、彼も太歳さんに声をかける。


「おお! 太歳殿! 首がつながって——」


「——なにより、というんじゃろ? わかっとるわい、南冥」


 太歳さんは大きな口で「かっかっか」と笑うと、空を見上げた。


 僕らもそちらを見る。


 そこには幽鬼のように浮かんでいる雪牙丸がいた。




 つづく

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