第254話 ついにヤツを見つけた

 月河げつがさんに抱えられたまま、顔を上げるとこの屋敷が一望できた。正門から僕らは左へと回って来たが、双子の北辰ほくしんさんと南冥なんめいさんがこちらにいるということは、美紅みくともう一人の鬼は右側へ向かったはずだ。


「月河は小僧を守っていろ。我らが——」


 北辰さんが僕らに指示を出したその時、屋敷の渡り廊下を勝ち誇ったように歩いて行く雪牙丸せつがまるの後ろ姿が目に入った。


 後ろ姿でも十分に浮き足立っているのがわかる。


 ——美紅!


 僕は身体がカッと熱くなった。


 僕には奴が美紅のつのを手に入れて喜んでいるのがわかったのだ。


「雪牙丸……!」


 僕の歯噛みした声が届いたのか、偶然にも雪牙丸が振り向いた。


 僕らの姿を認めると、一瞬驚いた顔をしたがその表情を消すと、ニヤリと笑った。


 月河さんたちもそれに気がつく。


「雪牙丸ッ!」


 双子鬼が同時に叫んで屋根の上から広い中庭を越えて雪牙丸に向かって飛んだ。


 北辰さんの体からはいかづちが、南冥さんの体からは風がそれぞれ生み出されてまとわりつき攻撃体制になる。


 ニヤリと笑ったままの雪牙丸はひょいと身体をかがめると何かを拾った。そして拾ったそれを投げつけて来た。


 ——頭だ。


 首だけになった誰かの頭を投げつけて来たのだ。なんて心の無いことをするんだろう。


 それを叩き払おうとした北辰さんが、振り上げた手をいきなり引っ込めて、投げつけられた首を受け止めた。


 しっかりとそれを受け止めた北辰さんは雪牙丸に向かってほええた。


「貴様ッ、よくも太歳たいさいを!」


 僕は慌てて北辰さんの方へ目を向けた。その名前は美紅から聞いている。美紅と組んで屋敷へ入った人だ。




 よく見えないけど、鬼の戦士の残る一人、太歳さんの首を僕らは投げつけられたのだ。


 それは嘲笑だった。


 雪牙丸は僕らを嘲笑い、自分の力を誇示しているのだ。


 僕は叫んだ。


「北辰さん! 太歳さんを僕に!」


 僕の言葉に北辰さんも他の二人もギョッとした。だけど月河さんがすぐにその意図を汲んでくれる。


「太歳を寄越せ! わしらがなんとかする!」


 僕は反魂玉の可能性に賭けたのだ。


 それを察した月河さんが僕の代わりに太歳さんの首を受け取る。


 北辰さんと南冥さんは僕をみて頷くと、今度こそ雪牙丸へ向かって飛んで行く。


一志かずし、わしらは太歳を探すぞ」


「うん、太歳さんは屋敷の中で美紅と離れてしまったんだ。だから雪牙丸が出て来たところの反対側に身体があるはず——」


「では中庭のこちら側か?」


 月河さんは白髪をなびかせて、僕を抱えたままふわりと屋根から降りた。


 屋敷を挟んだ向こう側からは硬質な金属音——蒼牙そうがのぶつかり合う音が聞こえて来る。


 急がなくては。


 僕らが降り立ったそこにはゴロゴロといくつもの死体が転がっていた。


「ぐっ……」


「一志は死体に慣れとらんのだろう。わしが見つけて来る」


「いえ、ぼ、僕もいきます」


 震えた声で返事しながら月河さんの後をついて行く。


「太歳までもが負けるとは……奴は大柄で赤銅色の肌で……む! あれか?」


 月河さんが走り出す。僕も慌てて追いかけた。


 ひときわ大きな死体の前で立ち止まった彼はひざまづいて確認する。


「間違いない、太歳じゃ」


 月河さんは太歳さんの遺体を整えて、足りない所に頭を置いた。


 その間に僕は最後の反魂玉に美紅の鬼力を注ぐ。金色の粒子を蓄えた反魂玉は、怪しくきらりと輝いた。


上手うまくいくか、わからないけど……」


「かまわん、やってくれ一志!」


 月河さんに背中を押され、僕は反魂玉を太歳さんの口へ押し込んだ——。





 つづく

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