第241話 お泊まり会といえばコレでしょう

 新宿から電車に乗って夜遅くに帰って来た僕らは、僕の母さんから少々のお小言と心配したこととを聞かされたあと、解放された。


 曲垣まがきくんがいなかったらもう少し長い説教をされてただろう。


 僕は部屋に戻るとベッドの上に倒れ込んだ。


「……疲れた……」


「ほらほらそんなこと言ってないで、まがピーの布団敷くよ!」


 オペラの元気さが羨ましい。


「ついでにボクもこっちで寝ようっと」


「お前も?」


 曲垣くんが不満そうな声を出す。


「コイツに刀の話を聞かせてやろうと思ってたんだが」


 親指で僕を指す。


 ええー、もういいよー。休ませてくれ。


「いやいやお泊まり会って言ったらコイバナでしよー?」


 それもいいから。


 曲垣くんがジト目でオペラに質問する。


「お前、相手いるのか?」


「なんの?」


「コイバナに出せる相手だ」


「いっ……! っとぉ、ボクは聞く専門なんだよねぇ」


「なら刀の話を聞かせてやる」


「エンリョしますぅ〜」


 ひらひらと手を振って部屋を出て行くオペラの後頭部に、曲垣くんが投げた枕が投げつけられたが、オペラは上手にかわして枕は戸にぶつかって落ちた。


「ちっ、絶っっっっ対聞かせてやる」


「曲垣くん、紫堂しどうにはムリだって」


「いーや、決めつけるな。そうだな、まずお前から教え込んで……」


「今日はやめ……」


 皆まで言う前に曲垣くんの眼光に怯んで言葉が切れる。


「……や、やあ楽シソウダナア」


「棒読みだな」


「もうちょい軽いお話にしない?」


「なんだお前も恋バナ派か?」


「そういうわけじゃないけど——」


「ああ、お前は相手がいるもんな」


「ええっ?」


 曲垣くんがしれっと言ったからめちゃくちゃ驚いた。


「だ、誰のこと!?」


「え? あの痴女——じゃなくて……変な外国人みたいな……背の高い金髪の」


 美紅みくのことだ。


「なっ、なんでそう思うの!?」


「図星か」


 珍しく曲垣くんがニヤリと笑った。


 レアだ。


 じゃなくて!


「違うから! 美紅は、なんつーか、その、家族、みたいな!」


 否定しているところにオペラが戻ってきた。自分の布団を抱えている。ところが僕の顔を見て不思議そうにしている。


たかむらくん、顔が赤いよー。どうしたの?」


「ばっ……! 赤くない!」


「曲ピー?」


 やめろ。曲垣くんに話をふるな。


「恋バナをしていた」


 してない!


 否定する僕の顔を見て、オペラまでニヤニヤする。


「たーかーむーらくーん? ボクも聞きたいなー?」


「違うってば!」





 つづく

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