第238話 依頼解決はみんなのおかげで
「ごちそうさまでしたー!」
僕らはマヤさんに手を振って挨拶する。
「大人になったらまた来てね」
マヤさんも手を振り返してくれる。
僕はお酒が飲める歳になったらこのメンバーで『
「ヨウちゃん、ボクが送って行こうか?」
オペラがヨウコさんに申し出た。確かにすっかり遅くなってしまったから、その方がいいかもしれない。
ところがヨウコさんはあっさりとそれを断った。
「ありがとうオペラちゃん。でも大丈夫。ちゃんと一人で帰れるから」
「心配だなぁ」
「平気だってば。それよりオペラちゃん、今度あなたに会う時は、しっかりとした目標を持って会いたいな」
ヨウコさんはニコッと笑った。真っ赤な口紅がよく似合う、モデルみたいな彼女の笑顔はカッコよかった。
「きっと見つかるよ、素敵な夢」
オペラとヨウコさんは握手して別れの挨拶に変えた。それから彼女は僕と
「ありがとうございました。私の依頼を解決してくれて——」
「かかか、解決なんてしてないよ! 僕は何も——」
「謙遜しないで。何かあったらまた依頼しますね!」
けらけらと笑いながら、ヨウコさんは僕らとは別の改札口へ向かう。
「からかわれたのかな?」
「半分は本気だろう」
曲垣くんが相変わらずの無表情で答える。
「さー、早く帰ろ!
そういえばそうだ。夕飯はいらない時は連絡しなくちゃならなかったのに、忘れてた。いや、忘れてたと言うか出来なかったというか……。
「だいじょーぶ! ボクが連絡しといたから」
「オペラー! お前マジ頼れる!」
思わずオペラのピンク頭を撫でぐり回す。オペラは「きゃーっ」と笑いながら曲垣くんにも話しかけた。
「
「曲ピーって呼ぶな! ……うちは放任主義だから別に構わん」
そう言うとサッサとホームへ向かう。
僕とオペラは顔を見合わせてから慌てて彼を追った。
「待ってー」
「待たない」
「曲ピーのケチ」
「何が!?」
オペラの軽口に付き合う曲垣くんを後ろから眺めながら、僕は曲垣くんの家の事情を思い返す。
たしかご両親は共働きで、おばあちゃんの家によく預けられていた。そこで居合を知ったけど、御両親は武道よりも英会話とかを習わせたかったらしく、居合を習う事に反対されてからずっとギクシャクしてるって言ってたはずだ。
それが曲垣くんが親に連絡しづらい原因なんだろう。
「オペラ、曲垣くんちにも連絡しといて」
僕がそう言うと曲垣くんが慌てて振り返る。
「なっ……! よせ、やめろ!」
「わわっ! ボク、曲ピーんちの連絡先知らないってばー!」
「……そういやそうだよな」
オペラの襟首を掴んでいた曲垣くんは、その手をぱっと離すと僕の方を見た。
やばい。
不穏な目つきだ。
「じょーだん、ちょっとした冗談だってば!」
「お前……!」
「いや、真面目な話しね、曲垣くんのお母さん達、ちゃんと僕の母さんにお礼に来たじゃない?」
曲垣くんの居合用の真剣は僕の母さんが融通したことになっている。
その時の話だ。
「だからなんだ?」
「僕も会ったけど、喜んでたんだと思うんだよ——居合を通して、曲垣くんが色んな人に出会ったことにね」
曲垣くんはぽかんとした顔で僕を見た。
「僕ももちろんそうなんだけど、先生や曲垣くんに会って、ほんと変わったと思うんだよね。曲垣くんのお母さんたちも、きっと何か感じたんじゃないかなぁ」
曲垣くんはびっくりしたようで、驚いた顔のまま僕を見ていたけど、だんだん顔が赤くなって来た。
「曲垣くん?」
「……おま、お前って、ホント……」
「?」
「言ってて恥ずかしくないのか?」
「!」
そう言われたら恥ずかしくなるじゃないか!
今度は僕の方がぷんぷん怒って足早になる。
オペラと曲垣くんが追いかけて来て両側に並ぶ。オペラがにやにやしながら話しかけてくる。
「いいよー、篁君カッコいいじゃん」
「知らない!」
「曲ピーも喜んでるってば」
矛先が曲垣くんに変わる。
「喜んでない!」
彼は即座に否定したが、それが本心でないことを、さっきより明るい顔付きが裏付けていた。さすがにその顔を見たら、僕も嬉しくなる。
だって僕の言葉が届いたってことだと思うから。
つづく
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