第237話 マヤさんの料理はめちゃくちゃ美味しい


 それから賑やかな食事になった。僕はほとんど寝ていたようなものだから、このご馳走にありついていいのか正直迷ったけど、空腹には勝てない。


『いいのう、わしも食べたいのう……』


『鬼丸』が僕のそばでぶつぶつ言っている。


 かわいそうだけど、食べられないのだから仕方がない。


「マヤさん、私ここで働きたい」


 ヨウコさんがあわよくばこの店に居座ろうと切り出したが、マヤさんはにっこり笑って断った。


「ダメよ。ちゃんとおうちに帰りなさい」


「ダメかぁ。あーあ、うちに帰ったら叱られるだろうなー」


 そう言いながらも、ヨウコさんは自分の家に帰ること自体を前向きに考えているらしかった。不思議に思って聞いてみると、意外にもユウタのことがきっかけらしい。


「ユウタのお母さんがさ、待ってたでしょ? 二十年も。それを聞いたら、もしかしたらうちの親もそうかもしれないって思っちゃった」


 ユウタの両親は引っ越そうと思えばそうしたはずなのに、いつか帰ってくるユウタのことを待ち続けていた。


 彼の思い出の詰まった家で待っていたんだ。


 いなくなった誰かを待つのって、ほんと辛いんだよね。の残した物を見るたびに思い出すから。


 ——ん?


『彼女』?


 僕は無意識に美紅みくのことを思い出していたらしい。


 僕は上着の上から胸のポケットを押さえて、そこに美紅のつのがあることを確認してホッとした。


 そういえば、ここにはまだ壊れていない反魂玉がある。


 夜空に消えていったナオヤとタクミ、それとかなめさんの反魂玉だ。ユウタの反魂玉は鬼火で燃やして反魂香として使ったから、もう無くなったのだ。


 鬼力きりきが入っていないから使えないけど、鬼火で燃やせば死んだ人の魂を呼び寄せるのだと聞いた。


 ——じゃあ、美紅を呼び出せる?


たかむらくん! 食べて食べて! 無くなっちゃうよ!」


 オペラの声にハッとする。


 ちょっと考えすぎたみたいだ。


「うん、食べる食べる!」


 僕は元気に答えると、熱々揚げたてのエビフライを口に運んだ。





 つづく

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