第231話 夜空に別れのキスを
足をもつれさせて、レッドは転がった。静かな住宅街に
本気を出した『
起きあがろうと顔を上げた瞬間、民家から一人の女性が出て来たので、レッドは蒼牙を瞬時に消した。
追う側の『一志』はレッドが蒼牙を隠したことに違和感を感じて足を止める。
距離にして車一台分、離れた所だ。
——まさか、一般人を盾にする気じゃないだろうな?
『一志』は身構えた。
女性が出て来たドアから暖かなオレンジ色の灯りがこぼれて、そのシルエットを黒く浮かび上がらせる。
「……あの、今、男の子を見ませんでした?」
その言葉に、レッドは体を震わせた。
もはや眼中に『一志』は居ず、レッドはその女性を凝視している。
「あの、ごめんなさいね。そんなはずないわよね——ああ、あなた大丈夫? 転んだの?」
——反魂玉だ。
レッドはそれを拾い上げると、ゆっくりと立ち上がった。
「大丈夫です。それより、お子さんがどうかされたんですか?」
「あ、いえ、なんでもないの。ちょっと……昔の幻を見たような気がして……」
レッドは量子の言葉に真剣な顔でうなずくと、心からの気持ちを込めた言葉を述べた。
「その幻は、きっと本物です」
「え?」
量子の引き止めるような
『一志』はそれを受け取ると、目を閉じてため息をつく。
『……』
「行きましょう」
『……つまり、ユウタは望みを叶えたのだな』
「ええ」
——全て後手にまわってしまったな。
『一志』は先ほどまで刃を交わしていたレッドと並んで歩きながら、彼女の行動を振り返る。
ユウタの反魂玉に
ボディガードの黒木を
『俺の本体が知っている
「——妹の
『そんなところだ』
「妹が知っている私は、自分から行動しないお嬢様でしたからね」
『そうは思わんが……』
「百年近く生きて——さすがに変わりました」
レッドはくすくすと笑った。
「ああ、何年ぶりでしょう。ここ数十年、こんなに思考がクリアになる日はなかったので、素直に嬉しいです」
『俺は復讐を止められず、後悔している』
「それは私のせいにしてください。決してあなたのせいではありません」
冬の寒さの中、夜の住宅街を歩く二人は戦ったのが嘘のように穏やかである。レッドは鼻腔をくすぐる冷たい空気を楽しむと、足を止めた。それから『一志』に向かってきっぱりと言い切った。
「私が全てを引き起こしたのです。この
つづく
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