第224話 欺瞞

たかむらくーん!!」


 名前を呼ばれて『一志かずし』が振り向くと、オペラが駆けてくる。いや、オペラだけではない。曲垣まがきとヨウコ、それにチンピラ風の男が二人——。


 グラサンと派手シャツだ。


 息を切らせて走って来ると、オペラは半ば『一志』にすがりつくようにして言った。


「た、篁君っ……今……この、二人に……」


『どうした? 何があった?』


『一志』はオペラを抱えながら後から来る皆をぐるりと見回す。皆が不安げな表情をしている。


「……ユウタと、レッドに……会ったって……」


 切れ切れにオペラが話し出す内容を聞いて、『一志』は驚いた。


『待て、たった今ユウタとレッドを見送ったところだぞ』


「それが……」


 ようやく息を整えたグラサンが話し出す。彼によると三十分ほど前に二人に遭遇したらしい。


「これが新宿の幽霊かと、ホント驚きやして……」


『それは後で聞く、ユウタは何か話したか?』


「あ、そうそう。実は的場まとばの居場所を聞かれやした」


『どういうことだ?』


『一志』の胸の中に不穏な渦が湧き上がる。


 ——俺は何か間違えたのか?


「多分、付け狙っていやしたから……もう一度襲撃するんじゃないかと」


『馬鹿な!』


 たった今、ユウタの反魂玉に鬼力きりきを入れたのだ。彼は「母親に会いにいく」と言っていた。


「そ、そうですよね。新宿の幽霊は新宿から出られねぇって言いますもんね」


『!!』


『一志』は顔色を変えた。


 ——奴の狙いはそれだったのか……!


 反魂玉に隠の気が入っていると、隠の気の薄い、街の外では活動出来ない。ユウタは街の外に出るために、鬼力を受け入れたのだ。


『的場タカシの居場所はどこだ!?』


「へ? え、と……組のモンに聞いたら、黒木と一緒に国分寺の自宅に帰ったとか……」


『ユウタが向かった先と同じだ!』


 ユウタと的場は元々同級生だ。自宅が同じ街でもおかしくない。


『一志』はユウタの反魂玉に鬼力を入れたことをみんなに説明した。


『俺はユウタとレッドを追う。復讐を止めなくては!』


『一志』は『鬼丸』を握りしめた。






 つづく

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